第84話 国葬守護

 夜が明けても敵は現れることはなかった。


 だから安心というわけもなく、これから始まる国葬を狙われる可能性があるので、引き続き見張りを続けていた。


 ナビーとケンボーも残ると言っていたが、親同然だった尚巴志しょうはしを見送ってもらいたかったので、琉美と説得して国葬に参加させている。


 しっかりと休むことができた琉美は、一睡もしていない俺に申し訳なさそうに言った。


「シバも少しは休んだ方が良いんじゃない? カマドおばーも見てくれているから大丈夫だよ」


「それなら、ここで仮眠しようかな。熟睡するかもしれないから、何かあったらすぐに叩き起こしてな」


 平らな場所で仰向けに寝転んで目を閉じた。


 パシッ!


「起きてシバ! 砂煙が見える!」


「まだ寝てねーから、叩かなくてもいいだろ!」


 今度はカマドおばーにお尻を叩かれる。


「そんなこと言っている場合じゃないさー。わんが報告してくるから、準備しなさい」


 カマドおばーが敵影を報告すると、あらかじめ待機していた首里軍1000が城の外で隊列を組んだ。

 琉美とカマドおばーが兵士にセジヌカナミセジの要を与えていく。


 ざっと見たところ、マジムン軍の数はいつもぐすくを襲って来る1000程度の数だが、そこにはいつものグナァウニ小鬼マジムンはいなかった。


 ……ウフウニ大鬼1000匹!? 按司あじならまだしも、普通の兵が何人もいたところで歯が立たないぞ。


 とっくに目は覚めてはいるが、特殊能力『昼夜逆転』を発動させて体の疲れを取った。


 そして、首里軍の先頭に立ち、じわりじわり近づいてくるマジムン軍を待ち構える。


 200mほど離れたところで進軍が止まった。


 琉美とカマドおばーは、まだセジヌカナミセジの要を終えていない。

 戦が始まると琉美が狙われる可能性があるので、とりあえず白虎を向かわせた。


 その時、マジムン軍の後方から舜天しゅんてんが飛び出してきて、30m先で刀を抜き、居合の構えをした。


 ……クソッ。舜天しゅんてんまで来ていたか。


 舜天の刀がヒンガーセジ汚れた霊力まといながら100mほど伸びた。首里軍を一振りで倒すつもりだ。


「なぎ払い斬り!」


 この技は、元の世界で見たことがあったので、身体が反応していた。


「セジオーラ・レベル9。クガニ黄金一閃!」


 首里軍から見て右から、横一線に襲う黒い刃に全速力で技を繰り出し、刀身を真っ二つにした。

 切れた刃先の部分は消滅して、短くなった部分だけが目の前の空を斬る。


 直ぐに軍の先頭に戻ると、琉美たちはセジヌカナミセジの要を終えていた。

 舜天を警戒していると、カマドおばーが声をかけてきた。


「今の止めなかったら、全滅だったさー。やしがだけど、舜天相手に仲間をかばいながらは勝てんから、あんたは敵だけ見てなさい。これ達はわんと琉美で守っとくから」


「お願いします」


 俺は1人で舜天に向かって歩いて行った。

 舜天は刀を納めて話しかけてきたので足を止める。


「お前はナビーのだな。まさか、ここまで強くなっているとは思わなかった。それにしても、お前たちだけしかいないということは、城内ではのんきに葬式でもしているのか」


「王が亡くなったんだから当たり前だろ。お前たちも1日くらいとむらってあげろよ」


「我らの弔いは合戦でのみなされる。我の技を防いだ褒美として、この1000の大鬼を倒すまで我は手を出さないでおこう」


 ……何が褒美だ。疲れさせた後に自分が攻めるってことだろ!


 しかし、これは好都合だ。

 舜天と戦いながらウフウニ大鬼も相手にすることは不可能に近いので、被害を最小限に抑えられるかもしれない。



 舜天はウフウニ大鬼軍の後方に戻って行ったので、俺は話した内容を皆に伝えると、琉美が提案してきた。


「それじゃあ、巨大白虎を暴れさせようよ。でーじとても強かったし」


「巨大化はパワーはすごいけど、その分セジ霊力の消費が激しいからやめておこう。それに、的が大きくなってせっかくの素早さが意味なくなるから」


 カマドおばーがうなずきながら忠告する。


やさやーそうだね。敵があれだけって決めつけも良くない。長期戦を考えた方がよさそうだから、無駄にセジは使わんけーよ使うなよ


 その時、2匹のウフウニ大鬼が前に出てくると、それぞれ2000ずつのグナァウニ小鬼を生み出した。

 あまりの数に首里軍の兵は動揺していた。


 ……これでは士気が下がるな。少しは希望を見せておかないと、この戦は乗り越えられないぞ。


「とりあえず、俺と白虎でグナァウニ小鬼を片付けるから、琉美とカマドおばーはここでみんなを守って下さい」


 俺は白虎を元の姿に戻して、もう一度シーサー化させた。

 乗る目的ではないので、白虎の大きさは人がギリギリ乗ることができないくらいにとどめている。


 ぞろぞろと進軍してくるグナァウニ小鬼4000に向かいながら、セジ刀・治金丸じがねまるを抜いて白虎にくわえさせた。


「行くぞ白虎。アースン合わせ技、斬り斬り舞!」


 白虎はグナァウニ小鬼の群れに突っ込み、くわえた刀で次々と斬り倒していく。

 俺は白虎にテレパシーで指示を出しながら、ヒンプンシールドで踏み台を作ったり、グナァウニ小鬼の足止めをしたりしていた。


 実践では初めての技だったが、グナァウニ小鬼4000とウフウニ大鬼2匹を物の数分で全滅させることができた。


 その勢いのままウフウニ大鬼の群れに突っ込ませ、さらに白虎は暴れまわったが、数十匹程度しか倒すことができていない。


 ……ウフウニ大鬼は流石に強いな。ここからはみんなで戦うか。


 琉美にテレパシーをつないだ。


「あまり倒せてはいないけど、ダメージは結構与えたと思う。これからは全軍で攻め込むぞ」


「大丈夫かな? ウフウニ大鬼按司あじたちでも簡単じゃない相手なんだよ」


「だからいいんだよ。普通の兵士がウフウニ大鬼を倒すことができれば、レベルも上がるし自信もつくだろうからな。俺は攻撃を続けるから、琉美とカマドおばーは皆の回復と援護をお願い。すぐに白虎を向かわせるから」


「わかった。気を付けてね」


 白虎を普通のシーサー化に戻して、琉美の元に向かわせた。


 ウフウニ大鬼の上空に作ったヒンプンシールドの足場に乗り、テダコ太陽の子ボールの雨を降らせてさらにダメージを与える。


 首里軍が突っ込んで合戦が始まると、狙い通りに善戦してくれた。


 残り数十匹というとき、舜天しゅんてんの背後から上空の俺に向かって嫌な敵が飛びかかってきたので、咄嗟とっさ千代金丸ちよがねまるで受け止めた。


天邪鬼あまのじゃくか!? まだ、終わって……」

「その約束は舜天先輩との約束だろ? おいらには関係ないね」


 そのまま地面に振り降ろして天邪鬼と距離を取った。


 ……クソッ! 天邪鬼まで来ていたのか!


「3将軍です! 下がって下さい!」


 とりあえず、首里軍を急いで下がらせて残りのウフウニ大鬼を自分が倒すことにした。


 ウフウニ大鬼12匹と3将軍の天邪鬼。


 俺が1人で突っ込んだ方がいいのか、遠距離でウフウニ大鬼を倒すべきか、何が最善なのか決められずにいると、頭の中にナビーの声が響いた。


ヨーカブシモーニングスターするよ!」


 ナビーは左手にイシ・ゲンノー石ハンマーをしたまま俺に向かって飛んできたので、その石にセジをめてウフイシにした。

 そこに、白虎に乗った琉美が龍のムチを構えて走ってくると、ウフイシとムチの先端を一体化させて振り回しながら敵に向かって行く。


 激しい攻撃がウフウニ大鬼を襲うと、残るは舜天と天邪鬼だけになった。


 琉美と白虎が戻ってくると、ナビーが辺りを見渡しながら言った。


「みんな、大ケガはしていないみたいで良かったさー」


「おい、ナビー。登場するタイミングが良すぎた気がするけど、わざとじゃないよな?」


「はぁ!? なわけないさー。たまたまよ、たまたま」


 目をそらしながら否定したので、かっこよく見えるタイミングを見計らっていたのだろう。

 舜天がゆっくりと前に歩いてくる。


「見事な戦いぶりだったよ。我ら相手にどう戦うのかが楽しみだ」


 戦場の空気が変わった。

 ウフウニ大鬼1000がかすんでで見えるほどに、この2人からはすごい威圧を感じる。


「ナビー、勝てると思うか?」


 少し黙ったナビーは、笑みを浮かべて首里城側を振り向いて言った。


「今のここには琉球のティダ太陽が集まっている。しわさんけー心配するな


 ナビーの視線の先には、いつもなら琉球の各地に散らばっている100人以上の按司あじたちが、横1列にずらっと並んでいた。


「すごい……」


 ぐすくの支配者である按司あじに敬意を払うとき、ティダ太陽と呼ぶことがある。

 正に今、闇に飲まれるはずだった琉球が照らされた気がした。

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