第83話 不器用な男
その日の内で、2代目琉球国王が正式に
悲しんでいる暇はないようで、明日の
日が落ちてきたにもかかわらず、
主要人物が集まっているこの首里城が攻め込まれてしまえば、簡単に琉球王国は滅んでしまうと考え、俺たちは会議に参加しないで独自に城外で見張りをしていた。
「ここは俺と琉美が見張っているから、ナビーは会議に行けばいいのに」
「この状況だと、見張りの方が重要だから気に
琉美も気になっていたようで、ナビーの気を紛らわそうとしていた。
「本当はかたっ苦しい会議が嫌なんでしょ? ナビーってアニメとかゲームしているとき以外は落ち着きないからね」
「えー! アニメとかゲームのことを思い出してしまったやっしー! 最近、やっと忘れたところなんだからな!」
「怒るとこそこなの? 落ち着きないって言われるのはどうでもいいのね」
俺もオタクなのだが、この世界に来てからは初めてのことだらけで、アニメやゲームの事をすっかり忘れていた。
元々この世界で暮らしていたナビーは、俺とは逆で忘れることが大変だったようだ。
ナビーの顔色がよくなった気がしたので、俺はさらに追い打ちをかけることにする。
「もう1年たっているからなー。ナビーが好きなゲームの新作が出たり、アニメの続きが始まっているかもよ」
「えー、シバはこっち側じゃないわけ? ドSなこと言わんけー。琉美
「ナビー! シバに言いつつ、私に仕返ししないでよ!」
「ニヤリ」
ナビーの不敵な笑みにつられて、俺と琉美は吹き出してしまった。
俺たちの緊張感が少しほぐれた時、カマドおばーとケンボーがやってきた。
「
「ですが、いつ敵が襲って来るかわかりませんので……」
「だから
ナビーに意見を求めようとした時、俺を見てうなずいていた。
「カマドおばーが変わってくれるなら大丈夫さー。私たちはご厚意に甘えて、休ませてもらおうねー」
ケンボーが琉美を見て、
「なんと
俺とナビーも行こうとした時、カマドおばーが俺だけを捕まえた。
「あい! そういえば、あんたは『昼夜逆転』とかいう能力を持っていたよね? あんたは一緒に残りなさい」
「よ、よく覚えていましたね……わかりました。俺は残ります」
もともと覚悟はしていたのだが、眠れると思ってからの見張り継続は精神的にキツイ。
「じゃあ、
カマドおばーはケンボーを残し、ナビーと行ってしまった。
……自由すぎる。それに、ケンボーと2人は
ケンボーも疲れていると思い、休んで来るように言った。
「あのー。ケンボーさんも朝から疲れているのではないですか? 俺は大丈夫なんで、休んできてもいいですよ」
俺に顔を向けたケンボーは睨んでくる。
「おい。
そういえば、ケンボーを
あの時は、ケンボーが俺に突っかかっていると勘違いしたナビーが、跳び蹴りをしたのでうやむやになっていたのだ。
「はい、覚えてます」
ケンボーは持っている槍を俺に向けて、更に強い眼光を向けてくる。
「
今やるべきではないことは明らかだ。
しかし、面倒を見てもらっていた
……今のケンボーには
「わかった。皆にバレたら怒られると思うから、向こうでやりましょう」
近くにいた警備兵に外の警戒を任せて、俺とケンボーは人気がない場所に移動した。
「
「わかった」
ケンボーは石を拾って上空に放り投げ、槍を構えた。
ナビーのように全速の一撃で決めてもいいが、加減を間違えれば後の戦いに響くので、違う戦い方のほうが良いだろう。
刀では槍の間合いに入って攻撃するのは難しいと考え、いなす用に一番短い
ポトッ!
石が落ちた瞬間、ケンボーは穂先にセジを
「
1発目の
そして、正面のヒンプンを壊したケンボーに向かって、あらかじめ放っていた3つの
「1歩も動かずにここまでやるばー! もっと本気でやらないとダメみたい
ケンボーは足を止めて槍を地面に突き刺した。
ナビーと同じように
……カマドおばーの孫だから当然か。こっちも覚悟を決めないとな。
全力でぶつかってくるケンボーに手を向くのは失礼だと思い、後の事を考えずに本気で戦うことを決心した。
「セジオーラ・レベル9。セジ刀・
ケンボーは後方に20メートルほど下がり、更に槍にセジを
「ぐあああああ!」
俺は居合の構えで
「
今までの
そのままの勢いでケンボーの間合いに入り、刀を首元で寸止めした。
「これが、今の俺の全力です」
「まだ終わってないぞ!」
腰に差していた
驚いたケンボーは尻もちをついて、脇差を放り投げて両手を上げている。
「降参!
負けを認めて立ち上がったケンボーは、清々しい顔で握手を求めてきた。
「本気で戦ってくれて、
見張りを再開して、2人で並んで座った。
「やっぱりシバは
「あー、はい……」
初めてケンボーと会った時からの、
あまりの変貌ぶりに頭がついて行かない。
「これで、
「
その時、カマドおばーがやってきてケンボーに
「シバには傷がないってことは、ケンボーの完敗だったみたいだねー」
「カマドおばー? もしかして、こうなる事がわかっていたのですか?」
「ケンボーはな、
「そうだったんですか。ん? でも、いつも怖い顔で睨まれていたし、何で戦うことになるんですか?」
「緊張したケンボーは、表情が硬くなって口調が強くなるからねー。それに、ケンボーが
「そのせいで友達ができなかったんじゃ……」
回復を終えたケンボーは、立ち上がってもう一度手を差し伸べた。
「シバ。これからは
「ゆ、
カマドおばーは俺とケンボーの背中を強めに叩いた。
「じゃあ、引き続き
今度は本当に休みに行ったようだ。
改めてケンボーと2人で座っていると、友達になる前より気まずく感じる。
「シバ。また戦ってちょうだいよ!」
「う、うん」
「シバ。今度、一緒に修行したいさー」
「たまにはいいかもね」
「シバ。一緒に酒も飲もうな。あっ、
「う、うん」
「あ! そういえば、琉美さんの事だけど……」
……
友達ができたことが余程嬉しかったのか、ナビーたちが戻ってくる朝方まで、ずっと話かけられ続けた。
キジムナーと友達になった時とは違う怖さを感じた。
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