第79話 失踪

 早朝、慌てた様子の佐司笠さすかさが家にやってきたので何事かと飛び起きた。


巴志はし王は来てないかね? 正殿せいでん内のどこを探しても見つからないのじゃよ」


 目をこすりながらナビーがきいた。


「いつもみたいに遊びまわっているだけじゃないわけ?」


「こんな時間に居なくなったことはないのじゃ……それに、昨夜は悲しそうなちらじゃったから、何か嫌な予感がしてならないわけよ」


 俺は尚巴志しょうはしと最後に会った時の事を思い出した。


「琉美が受け取った黄金勾玉クガニガーラダマをギトギトって言ったから、落ち込んでいたのではなかったのですか?」


 琉美のムチがお尻でパチンとなって完全に目が覚めた。


「シバは私を悪者にしないと気が済まないわけ? それよりも、白虎がいないみたいだけど?」


 家の周辺を探しても白虎は見つからず、面シーサーもなくなっていた。

 白虎に乗りたくてかってに連れて行っただけなのではと思ったが、佐司笠さすかさの表情はますます曇っていく。


「やはり、捜索せねばならぬかもしれない。首里城と浦添城うらそえぐすくの周辺に捜索隊を送ることにする。ナビーたーは何かあった時のためにここで待っていてくれ」



 騒がしくなった首里城内で、いつでも戦いに行ける準備をしながら待機していた。

 一応、白虎にテレパシーを送るとワンと返すので、安否確認をすることはできた。

 尚忠しょうちゅう護佐丸ごさまるにテレパシーで報告をすると、直ぐに首里城に来てくれることになった。


 それからしばらく待機していると、尚巴志のシーサー太陽丸てぃだまるが俺たちの前に跳んできた。

 なぜだか知らないが、背中には1年前の今帰仁なきじん戦の日に1度だけ会った、ユタのカマドおばーと共に放浪ほうろうしている弟子のチヨが乗っている。


うんじゅなーあなた方しか頼れる人がいないのです! 危険なのですが、カマドおばー達を助けてください! そこに、尚巴志しょうはし王もいますので!」

 

じゅんにな本当か!? 何があったわけ?」


「乗って下さい。移動しながら話します」


 太陽丸てぃだまるには3人しか乗れないので俺と琉美が乗り、ナビーは別のシーサーを佐司笠さすかさと一緒に乗ることになった。

 2頭のシーサーを並走へいそうさせながら、チヨが事のいきさつを語り始める。


 早朝からカマドおばーと座喜味ざきみ周辺を歩いていたところ、駆けている白虎を見つけ、俺たちだと思い声をかけようとした。

 しかし、それが尚巴志しょうはしだと確認できたときには過ぎ去ってしまう。

 その時、遅れてついてきていた太陽丸てぃだまるがカマドおばー達に気が付くと、無理やり乗せられて尚巴志しょうはしを追いかけたようだ。


「お察しの通り座喜味城ざきみぐすくでした。尚巴志しょうはし王はためらうこともなかったのでしょう、直ぐに乗り込んですでに戦っていました。これはいけないと、カマドおばーはちゅーばー強いんまがをセジの力で呼び出し、私に援軍を探してくるように言ったので、うんじゅなーあなた方を頼ることにしたのです」


 少し安堵あんどした表情で佐司笠さすかさが口を開いた。


「カマドのねーさんとケンボーがいるのなら、しばらくは大丈夫じゃな」


 ナビーはケンボーの名前が出て誰よりも驚いていた。


「ケンボー!? ケンボーはカマドおばーのんまがだったわけ? 初耳さー」


「血のつながりのあるケンボーの世話をせずに、弟子を取った薄情者と思われないように、わんと王で隠していたからのう。まあ、今ではお互い仲良くやっているみたいじゃよ」


 チヨが嬉しそうに満面の笑みで答えた。


セジ霊力の使い方を教わりに、よく会いに来てましたよ。そういえば、ずっとナビーさんに勝ちたいと言って頑張ってましたね」


「だからちゅーばー強くなっていたのか……」


 雑談していた俺たちに佐司笠さすかさかつを入れる。


「緊張感が足りないさー! もうすぐ座喜味城ざきみぐすくにつくから、くくるぬ心の準備しなさいよ。今はまだ為朝と戦う時ではない。王だけを連れて帰る事だけを考えなさいね」


 緊張感が足りないという言葉に、心臓を一瞬握られたようで苦しくなった。

 数々の戦場を経験しすぎて、戦に対して緊張しなくなっていたのかもしれない。

 今から向かうところはみなもとの為朝ためともがいるかもしれない敵の本拠地なので、気を引き締めて準備することにした。



Lv.73


HP 960/960  SP 803/803


攻撃力 876 守備力 1034 セジ攻撃力 789 セジ守備力 1010 素早さ 960


特殊能力  中二病  マージグクル土心  昼夜逆転  


      身代わり  ティーアンダー手油 

 

特技 テダコ太陽の子ボール Lv.10    ティーダ太陽ボール Lv.10


   イシ・ゲンノー石ハンマー Lv.8    セジ刀 Lv.10


   ヒンプンシールド Lv.10  セジオーラ Lv.9      


   カジマチつむじ風 Lv.8



 ナビーが尚忠しょうちゅう護佐丸ごさまるに今の状況を報告して、首里城ではなく座喜味城ざきみぐすくに来てほしいと伝えてくれた。


 座喜味城ざきみぐすくに到着すると、グナァウニ小鬼3000とウフウニ大鬼30ほどが城内にわらわらといて、城壁の角でケンボーとカマドおばーがグナァウニ小鬼と戦っているのを確認した。

 追い込まれているというよりも、敵を背後に行かせないためにうまく戦っているようだったが、城壁の上にグナァウニ小鬼がやってくる。

 俺たちは急いで城壁に上り、そこにいたグナァウニ小鬼を倒していると、佐司笠さすかさが2人に声をかけていた。


「ねーさん、ケンボー! たしきに助けにきました。王はまーやがどこに?」


「あい! あんたも来たわけ? 王は奥に1人で行きよったさー! 佐司笠さすかさとチヨはここに残って、ナビーたーへーく早く行かせなさい! ヌチカーキーするみたいだったさー」


「やはりのう……」


 近場の敵を倒したので俺たちは集まった。

 琉美は攻撃を回避してくれる白虎がいないので、俺とナビーで守りながらさらに奥に進んで行く。

 俺が1人でグナァウニ小鬼を蹴散らしていると、俺も気になっていたことを琉美がナビーにきいていた。


「ねえ、ナビー。ヌチなんとかって聞いて佐司笠さすかささんの顔色が悪くなっていたけど、それって何なの?」


「私も聞いたことがないさー。それよりも、急ぐよ!」


 門の前にいた2匹のウフウニ大鬼を倒して中に入ると、ウフウニ大鬼40匹がサークルを作っていた。

 その中心で白虎に乗った尚巴志しょうはしが刀を構えている。


尚巴志しょうはし王!」


「ナビー!? ぬーんちどうして……」


 ナビーの叫びと共にウフウニ大鬼めがけて一斉攻撃を仕掛けた。

 囲いの一部に隙間ができたので、俺が白虎に指示を出す。


「白虎、こっちに獅子突進ししとっしんだ!」


 白虎は言われた通りに4匹のウフウニ大鬼を吹っ飛ばしながら、俺たちに向かってきた。

 しかし、尚巴志しょうはしは乗っていない。

 俺は尚巴志と合流するために白虎に指示を出したのだが、尚巴志は自らの意志で白虎から降り、ウフウニ大鬼に囲まれたままこちらに背を向けていた。


「勝手に連れ出してわっさいびーんすまない。白虎は返すのでうんじゅなーあなた達は首里城に戻りなさい」


「戻れるわけないさー! 何言ってるわけ? がんまりしないでふざけないで一緒にけーる帰るよ!」


 尚巴志しょうはしは無言でウフウニ大鬼を警戒している。

 とりあえず、琉美には白虎に乗ってもらい、目の前のウフウニ大鬼を倒す事にした。

 その時、体内のセジが騒ぎ出して空気が重く感じた。

 元の世界で1度だけ同じ感覚を経験したことがある。


「ほう、ここまで入ってこられる奴がいるのかと思えば、尚巴志しょうはし王とナビー一行いっこうではないか。ハッハッハッハ! 王自ら乗り込んでくるとは、あきらめて国を渡す気にでもなりましたか?」


 俺は、とうとうみなもとの為朝ためともがやってきたのだと思っていたが、そこにいたのは鬼の特徴が顔に表れた舜天しゅんてんであった。

 向こうの世界で会った時よりも数段強くなっていることは、まがまがしいオーラで想像がつく。

 尚巴志しょうはしはひるむことなく、舜天しゅんてんに要求した。


やーお前に用はない。為朝ためともまーかいがどこにいる。為朝を出しなさい!」


「為朝様と簡単に会わせられるわけないですよ。それよりも……」


 舜天しゅんてん尚巴志しょうはしを無視して、俺たちと話ができるところまで移動した。


「ナビー。この姿で会うのは初めてだな。お前のもさらに成長したようでうれしいぞ! 最後の機会を与える。我の妻となれ!」


「べー! やーお前よ、イメチェンしてかっこよくなったって思っているみたいだけど、うちなーんちゅ琉球の人よりくーたー濃いちらできつくなってるさー。それに、いらー変態のままだしはごーさよ気持ち悪い!」


 ナビーは舜天しゅんてんヒヤー火矢を向けると、ティーダ太陽ボールを連射した。

 近くにいたウフウニ大鬼が飛ばされるほどの激しい攻撃だったが、煙の中から無傷の舜天しゅんてんが無表情で出てきた。


「まあ、そうなるとは思っていたさ。これで心置きなく駿馬順熙しゅんばじゅんきかたきを取ることができる。受け入れなかった我に殺され、後悔して死ね」

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