第66話 ナビーの幼馴染

 琉美が白虎にのせている模造刀を手に持って、今の俺が一番触れてほしくないことで精神攻撃をしてきた。。


「うわ、これってこんなに重かったんだ! でも、身軽になった後に刀で戦わなかったね。あの演出って前から考えていたんでしょ? 続きができなくて残念だったね」


「だからよー! 私も続きが見たかったさー」


「それ以上はやめてくれ。ビンタだけでは物足りなかったのか? このドSども!」


 すると、ナビーが急に何かを思い出したように大きな声を上げた。


あいやーしまった! そういえば、こっちに戻るとき、味方の兵が15人倒れていたことわすれていたさー! 佐司笠さすかさ様、私がマブイグミはしておきましたので、グスイができるノロと、兵を運ぶ者を直ぐに向かわせて下さい」


じゅんになー本当に? すぐに向かわせようね」


 佐司笠さすかさは直ぐに、弟子のノロ2人と十数人の兵を向かわせた。

 そして、不思議そうな顔でナビーにきいてきた。


「ナビーは、本当に1人で15人もマブイグミしてきたのか? 異世界に行く前は、1日13人が限界だったじゃろう?」


「あっちの世界で鍛えられたおかげで、今では1日35人くらいはできますよ」


 佐司笠は予想以上に成長しているナビーに驚いて、口を開けて固まってしまった。

 ナビーの話を聞いていた尚巴志しょうはしは、嬉しそうにナビーを称賛した。


「ナビーの事だから戦いばかりで、ノロの鍛錬はおごそかになっていると思っていたのだがな。ノロとしても成長していて、いっぺーちびらーさんとても素晴らしいな!」


 尚巴志しょうはしがナビーの頭を撫で始めるが、ナビーはすごく嫌そうだ。しかし、抵抗しないで撫でられていた。

 佐司笠以外の人前では、辛辣しんらつな態度をとらないようにしているみたいだ。


「ところで、ナビー……義本ぎほんが言っていた、婚約者とは何のことかね?」


 ナビーはため息をついて、めんどくさそうに返答した。


「別に、何でもないです。私を好きだった舜天しゅんてんの目を、シバに向けさせるためについた嘘です。そんなことより、城内に敵が入って王が狙われた以上、5日後の公開模擬戦は中止ですよね? 私たちは、どうなりますか?」


「え? 中止しないぞ」


 佐司笠さすかさは眉間にしわを寄せて、尚巴志しょうはしをにらみつけた。


「えー! やなーダメな王やー。こんな状況で公開模擬戦なんて、できるわけないだろうが! それに、1人で出歩いて危ない目にあったくせに、少しは反省しなさい!」


「わ、わっさいびーんごめんなさい……今の戦いを見て、ナビーたちの実力は十分確認できた。模擬戦をするまでもないだろう。ぜひ、うんじゅなーあなた達の力を、琉球のために貸してほしい」


 尚巴志しょうはしは軽く頭を下げ、その隣の佐司笠さすかさも続いた。

 すると、周りにいる数十人の警備兵たちも次々と頭を下げてきた。

 俺たちは3人と1匹で横並びに立ち、さらに深くお辞儀をして了解の意志を示した。


 正式に琉球軍に加わることとなったその時、正殿前広場に入る門からシーサーに乗った、俺たちと同じ年代の男が慌てて入ってきた。

 周りを確認することもなく、門の近くにいた1人の警備兵を捕まえて必死に問いただしている。


「ナビーが帰ってきたって本当ですか!? 今どこにいるのですか?」


ふらーやー馬鹿者! 王がいるのが見えないのか!?」


 警備兵は落ち着きのない青年をシーサーから引きずり下ろし、めーごーさーげんこつをくらわせて、王のいる方に首を振った。

 男は慌てて頭を垂れたが、隣にナビーがいることに気が付くと、走ってナビーに駆け寄ってきた。


「ナビー! やっと帰ってきたか! 待っていたぞ!」


「あい! ケンボー! あいかわらず、かしましいなうるさいなちゃーがんじゅーねー元気だった?」


 ケンボーと呼ばれた青年を間近で見ると、沖縄特有の堀の深い顔と、横にがっしりとした筋骨隆々の体格のせいか、野性味あふれる男だと感じた。


「話は後だ。とりあえず勝負するぞナビー! 異世界とやらでどれほど成長したか、わんが見てやろう」


「はぁ、ケンボーは本当にやっけーむん厄介者さー……いゃーお前にかまっている場合じゃないわけよ。また今度にしてちょうだい」


 ナビーとケンボーの関係性がよくわからなかったので、佐司笠さすかさに聞いてみる。

 西平総賢にしひらそうけん(ケンボー)は幼いころに両親を亡くしてしまい、佐司笠さすかさが気にかけて見守っていた。

 そのため、同年代のナビーと接することが多くなり、幼馴染になったそうだ。

 ナビーとは幼いころからケンカや模擬戦を繰り返してきたライバルなのだが、少しナビーの方が戦績が良いので、勝ち越すために何度も挑戦しているらしい。


「戦ってやれナビー。義本戦では途中参加で物足りなかっただろ? 総賢そうけんはナビーが不在の中、ナビーに勝つことだけを考えて鍛錬していたみたいだぞ。もしかしたら、逆転されているのではないか?」


 尚巴志しょうはしの言葉で兵士たちが盛り上がりはじめた。

 みんな2人の戦いを観戦したいようだ。


尚巴志しょうはし王、にふぇーでーびるありがとうございます。王の許しは得た。ナビー、ヒヤー火矢を握ってわんと勝負しろ!」


「わかった。勝負は受けることにする。やしがだけど、これでケンボーとの戦いは最後にして、どっちがちゅーばー強者なのかを今日で決めようねー」



 ナビーは家にヒヤー火矢を取りに行くので、俺と琉美もついていくことにした。

 歩きながらケンボーの事を聞きたかったが、なんだか聞きにくい気持ちになっていた時、琉美がナビーに質問してくれた。


「あのケンボーって人、ナビーの幼馴染なんでしょ? 強そうだったけど、勝てそうなの?」


「……琉美、戦いが終わったら、直ぐに回復お願いね。死ぬかもしれないからさー……」


 俺は、反射的に前を歩くナビーの肩を掴んでいた。


「死ぬってどういうことだよ!?」


 ナビーの表情筋はピクリともせず、虚ろな目になったまま何も返事をしてこない。

 初めて見るナビーの異様な雰囲気に、俺と琉美はひるんでしまい、何も言葉が出てこなかった。


 ……ナビーはこの戦いに、何かをかけて挑むつもりなのか?


 ヒヤー火矢を取って正殿前広場に戻ると、決闘を聞きつけた人たちが正殿前広場を囲うように立っていた。

 俺と琉美は、尚巴志しょうはし佐司笠さすかさがいる真正面の特等席に招待された。

 強者同士の模擬戦はめったに見られないようで、見物人は期待に胸を膨らませて、今か今かと待ちわびている。


「両者、前へ!」


 仕切りの兵の合図で、ヒヤー火矢を持ったナビーと槍を持ったケンボーが、広場の中央に入場してきた。

 ナビーの様子が気になっていたのでよく見てみると、虚ろな目は変わっていなかったが、口角が上がっていて増々不気味な表情をしていた。

 俺は思わず、これまでの2人の戦いがどうだったのかを佐司笠さすかさに聞いてみた。


「ナビーの様子がおかしいのですが、ケンボーさんと戦うときはいつもそうなんですか?」


「いいや。いつもはかしまさん面倒くさいと思いながら、いやいや戦っていたぞ。ケンボーはめーにち毎日戦いを挑んでいたから、ナビーは心底ケンボーのことを嫌っていたからのう」


 そのとき、仕切りの兵がルールの説明を始めた。


「武器あり、セジ霊力なしの1本勝負。どちらかが倒れるか、参ったをした時点で終了とする」


「ちょっと待って。せっかくこれだけの観客がいるから、セジも使った何でもありでやらないか? ケンボーも全力で戦いたいだろ?」


「ナビー、珍しくやる気満々だな! わんも全力で戦いたいので異論はない」


 仕切りの兵が振り向くと、尚巴志しょうはしがルール変更の許可を示すためにうなずいた。

 すると、広場に集まっている観客の歓声が指笛と共に響き渡る。

 佐司笠さすかさはため息をつきながらも、ケンボーがセジを使えるようにセジヌカナミセジの要を与えに広場の中央に歩いていったので、俺もナビーの様子を確認するためについていった。


「ナビー。様子が変だけど、大丈夫か?」


「あっ、シバか。大丈夫だよ。ただ、私がこの世界をたつとき、やり残していたことがあったけど、それを今やり遂げることができるから、うれしいわけよ」


 佐司笠さすかさが用を済ませて戻っていくので、俺もそれに続いた。

 振り返るとき横目でケンボーを見ると、にらまれている気がして背筋がぞわぞわした。

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