第34話 ナーベーラーモード

 3匹のマジムンが急に襲い掛かってきた瞬間、俺たち3人はその3匹から敵意を感じたので戦闘モードに切り替えて身構えた。

 その時、ミシゲーしゃもじウッシーは俺たちに近づくこともできずに地面に突っ伏つっぷした。

 ハーメー老婆マジムンは片膝をついて何かに耐えている。


あがー痛い!? うんじゅなーあなた達見てたら急に痛みが……」


 どうやら、3人分の特殊能力【中二病】の効果でダメージを与えているようだ。

 俺の左側にいるナビーもそれに気が付いた。


やっさーそうだ! 琉美るみも加わって中二病が3人になったから、強力になったんだねー」


「中二病が3人って聞くと、なんかやばい感じがするな。でも、琉美を中二病にして正解だったみたいだ」


「2人とも、話ししている場合じゃないみたいだよ。オバーが何かするみたい」


 中二病ダメージに耐えて立ち上がったハーメー老婆マジムンは、精神統一し始めた。


「まさか、何もしてない相手にここまでやられるとは思わなかったさー。うんじゅなーあなた達になら本気でやっても大丈夫そうだね」


 ウッシーは何とか立ち上がり、顔を強張らせている。


「まさか、ハーメー!? ナーベーラーモード、解放する気モーか?」


「ああ。ナーベーラーモードくらいは対処してもらわないと、キジムナーには会わせられないさーね。それに、こ奴らならそれくらいしても大丈夫さー」


 ハーメーマジムンは、自分の着物のえりを両手でつかんだ。

 気合を入れなおすための動作だと思ったが、そうではなかったようだ。


「ナーベーラー解放!」


 つかんでいたえりを思い切り引いて、恥ずかしげもなく着物をはだけさせた。

 そこには、足の付け根まで伸びたデロンデロンの胸がぶら下がっていた。

 ミシゲーは起き上がって興奮していた。


「ナーベーラーモードだシャモ! これなら対等に戦えるシャモ」


 目の前で起こっているマジムンたちの茶番のような光景に、俺たちは呆れていた。


「はぁ? ナーベーラーへちまって何かと思ったら、それのことだったのかよ! ただのオバーのおっぱいだろーが!」


 俺の右側にいる琉美が、どうでもいいことを言ってきた。


「あれだけ伸びてるところからすると、若いときは巨乳だったんじゃない? 大きいのにもデメリットはあるんだね。私は普通でよかったかも」


 ナビーが少し怒っているように見える。


「琉美、そんなこと言うな! それに、在来マジムンはそのままの状態で生まれたから、見た目は変わってないはずよ」


 緊張感のない雰囲気でいると、ハーメーマジムンがナーベーラーへちまパイを放り出したまま杖を構えて向かってきた。

 そのまま一直線に走ってきて、俺まであと5歩の距離で急ブレーキをかけると、慣性かんせいの法則に従ってデロンデロンのナーベーラーへちまパイだけこちらに向かって伸びてきた。


 ペッチン!


 俺の腹をめがけてきたナーベーラーへちまパイを反射的に右手で払った。

 柔らかい感触をイメージしていたが、それとはかけ離れていた。


「あのおっぱい、すごいガッサガサだぞ! 右手がおろし金で叩かれたみたいになっている」


 俺が痛がる姿を見て、琉美がすぐに回復してくれた。


 ハーメーマジムンは俺たちから距離をとって、右のナーベーラーの先端を右手でつかんだ。


「これがナーベーラーへちまと言われるのは見た目あらんじゃない。たわしの様にガサガサしていることがそのゆえんさー」


 ウッシーがハーメーマジムンに助言を出した。


「ハーメー。回復役の琉美様から倒すのが定石だモーよ!」


わかゆんわかってる!」


 ハーメーマジムンは俺たちから見て右側、琉美の方から回り込んで向かってくる。


「琉美、下がって! 俺が対応するから」


「待って」


 琉美は焦る様子もなく、前に出ようとした俺を止めた。

 そして、ナビーにも左腕をつかまれて静止させられた。


「大丈夫。琉美に任せれ」


 ハーメーマジムンは、走りながら右手でつかんでいた右のナーベーラーへちまパイを、腕と一緒に身体の横に伸ばしてそのまま琉美に突っ込んできた。


「必殺、ナーベーラリアット!」


「銀龍のムチ」


 琉美は、特技【中二病】を会得するときに買った龍が巻き付いたキーホルダーの龍の部分にセジをめて、2mくらいのムチを作り出した。

 そして、華麗なムチさばきで飛んできたハーメーマジムンを打ち払った。


「アッガー! うんじゅあなたは攻撃もできるのか!?」


「私から狙われることもあるからと、ナビーに仕込んでもらったんだよ。まだまだ行くよー!」


 琉美は楽しそうに頭上でムチを振り回している。

 ハーメーマジムンは急いでミシゲーとウッシーを集めて指示を出した。

 ウッシーは興奮状態になって上半身の筋肉が一段と盛り上がった。

 そして、ミシゲーをバットを振るように持ち始めた。


アースン合わせ技。たわし大砲!」


 ハーメーマジムンはウッシーの前に立ちジャンプすると、ウッシーはそれをめがけて思いっきりミシゲーをフルスイングした。

 ジャンプしたハーメーマジムンはミシゲーを踏み台にすると、ものすごい勢いで俺たちめがけて飛んできた。


「ヒンプンシールド・イチチ5つ!」


 流石に琉美にはどうにもできないとみて、ナビーがヒンプンシールドを分厚く設置した。

 勢いよくそれにぶつかったハーメーマジムンは、4つ目のヒンプンを壊したところで止まると、衝撃に耐えられなかったのか、体が消えてマブイだけになった。


「今のは危なかったさー! すごい技だったね」


「びっくりしたー! 今の私のムチではどうにもならなかったかも……」


「そうだな。アースン合わせ技って言ったか? この弱いマジムンたちでも、力を合わせればこんなにすごい技が出せるんだな」


 ミシゲーとウッシーは力を使い切ったのかその場で倒れている。


「えー、シバ。このままでは話が進まんから、これ達どうにかして」


「わ、わかったよ……」


 ハーメーマジムンのマブイにセジをめる。

 一度失敗しているので、必要最低限のセジを与えて復活させた。


「なにこれ!? うんじゅあなたのセジ、うすまさいいやんべーするとても気持ちがいいさー。もっとちょうだい。ねえ、もっとちょうだい!」


「だ、ダメです! 俺が倒れちゃいますから。それより、欲しがり方があぶねーよ!」


 少し落ち込んだ様子のハーメーマジムンは話を切り替えた。


「それにしても、うんじゅなーあなた達ちゅーばー強いだね。全く歯が立たなかったさー。3人でやるとっておきの技で、触れることすらできないとはね……」


「俺たちは戦うのが専門ですから。それにしても、あのアースン合わせ技っていうのすごいですね」


やんどーそうだよ! アースン合わせ技は技と技の組み合わせ次第でうすまさちゅーばーとても強くなるからよ。うんじゅなーあなた達もやったらいいさ」


「そうします。アースン合わせ技ができるだけで、戦力が上がりそうですからね」


 ナビーもうなずいている。


「そうだね。アースン合わせ技の存在を知れてよかったさー。色々な組み合わせを練っていかないといけないね」


 これからの可能性にワクワクしていると、ハーメーマジムンが本題に戻した。


わんが試す必要もないくらい、うんじゅなーあなた達ちゅーばー強いだったさー。これならキジムナーに会せても大丈夫かもしれないねー」


 これでやっと前に進めるので喜んでいると、ハーメーマジムンは不安になることを言った。


やしがだけどわんはついていかんからな。キジムナーに会うのはうんじゅなーあなた達とこいつらとで頼む。わんはここから離れたくないし、キジムナーにも会いたくないからね」


「え!? 案内してくれないんですか?」


「場所は教えるから安心しれ。こいつらに案内させるから……ってまだにんとーんぐゎしー寝たふりしてるのか、このふらーたーバカたちは!」


 ハーメーマジムンが倒れたままのミシゲーとウッシーの元に行き杖で叩くと、2人とも元気いっぱいに飛び上がった。


「痛いシャモ。も、もう少しだったのにシャモ……」


「もったいないモー」


 何のことを言っているかわからなかったので、ナビーにきいてみた。


「何言っているんだこいつら?」


「ああ、あれさ。そのまま倒れていたら、シバからセジをもらえると思っていたわけよ」


「はぁ。もう勘弁してくれ……」


 ナビーに作戦をばらされたミシゲーとウッシーは、意表を突かれた様子だ。


「ば、バレていたシャモ……」


「ナビー様、するどいモー」


 この時、俺は余程のことがない限りこいつらにセジを与えないことを決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る