第33話 オバーのマジムン
2019年6月5日、午後1時。
濃い緑の葉っぱで生い茂ったフクギ並木は、集落の防風林の役割を果たしており、昼間でも薄暗く感じるほどたくさん植えられていて、幻想的、神秘的に思える場所である。
この辺りに目的の
「なあ、ミシゲー、ウッシー。今から会うマジムンは、本当にこの辺りにいるのか? 30年ぶりに会うって言ってたけど、移動しているんじゃ?」
「大丈夫シャモ。
「ユタとかに
マジムンが人にいたずらをして、その人が力を持ったユタに相談してしまうと
「ところで、ハーメーって聞いたことないけど何なんだ?」
ナビーが説明してくれた。
「そういえば、こっちの世界ではあまり聞かなかったねー。簡単に言うとオバーのことさー。厳密にいえば、平民の高齢女性のことだけど、こっちでは士族と平民の区別がないから使わなくなったんだはずねー」
「オバーのマジムンってことは、人のマジムンなのか?」
「在来マジムンは、実体のない
自分たちマジムンのことを、
「ミシゲーたちマジムンは、数百年前に
ウッシーがピョンピョン跳ねながら続けた。
「シバ様たちと
「ちょっと! この子たち、チョーかわいいんだけど。マジムンっていうから警戒していたけど、関わり方さえ間違えなければいい子たちなんじゃないの?」
「そうだな。セジをとりすぎなければ、いい関係が結べそうだ」
「あっ、あの時はごめんなさいシャモ。つい、吸いすぎてしまったシャモ……」
「モーしわけなかったモー……」
本当に反省している様子だったので許すことにした。
もうしばらく歩いていると、フクギ並木の向こう側に海が見えた。
フクギ並木の終点付近にあるベンチに、老婆が1人で座っている。
それを見たミシゲーとウッシーは、急いでその老婆に駆け寄って話しかけた。
「
「
老婆は全く見向きもしないで変わらず座ったままだ。
「何で無視するシャモか!? おーい! 聞こえているシャモか?」
老婆の目の前で大げさに動いているにもかかわらず、今だ反応がない。
そこで、まさかのセリフをウッシーが放つ。
「返事がない。ただの
俺とナビーは不意のボケに吹き出してしまった。何のことかわからない琉美は首をかしげている。
「何でマジムンがそのセリフわかるんだよ!? ってそれはいいとして、お前たち何で無視されてるんだ?」
「わからないシャモよ。高齢だから耳と目が悪くなったかもしれないシャモ」
そうは言うが、なんだか違和感がある。
なぜなら、この老婆は俺とナビーと琉美を見ているからだ。そして、微笑みながら軽く会釈した。
困っている風のミシゲーとウッシーの横で、ナビーと琉美が思っていることを話した。
「このオバー、私にはマジムンに見えないさー」
「うん。私も、ただの小さめのおばあちゃんにしか見えないよ」
その時、フクギ並木の隙間から、薄黄色の着物を着た白髪の長髪で、身長が俺の腰くらいの老婆が現れて、ミシゲーとウッシーの頭をポコポコ叩き始めた。
「痛い! 痛いシャモー。あれ? こっちにも
「ハーメーって双子だったのかモー?」
「
「聞き覚えのある語尾だったから来てみれば、やっぱり
ベンチに座っている老婆とハーメーマジムンを見比べると、全然似ていない。
大きさ、顔、髪型と間違える要素が見当たらなかった。
バカらしかったのだが、一応確認してみる。
「おまえたち、本気で間違えたのか? 冗談でやってたんだろ?」
2人は顔を見合わせると表情が曇った。
「ウッシーたちは老人の顔を見分けるのが苦手かモーしれないモー。正直、オジーとオバーの区別がつかないこともあるモー」
それを聞いたハーメーマジムンは、持っている杖でミシゲーとウッシーの頭を叩いた。
「
「痛いシャモ……この人たちはミシゲーたちを助けてくれて、
ナビーが自己紹介をしたのでそれに続いた。
「
「シバです。よろしくお願いします」
「琉美です。よろしくです」
「
登場してから怒りっぱなしだったので、怖いマジムンなのかと警戒していたが、大丈夫だったようだ。
「外来マジムンの力の源、私たちは
「ああ、
スマホのアプリで沖縄本島の地図を見ることにした。
現在地の
「ここから東と言えば、
「……」
ナビーにきいたつもりだったが、難しい顔で黙ったままだ。
俺もナビーもわかっていたが、あえて口に出さなかったことを琉美が言った。
「
「……やっぱり、それしかないのかな? でも、地図で見てもわかるけど、この辺りは山が多くて白虎の負担が大きそうなんだよな……」
しばらくみんなで考え込んでいると、
「
在来マジムン最強のキジムナー。
アマミンが怒らせると
同じマジムンにもおすすめされていないところからすると、本当に扱いが難しいのだと悟った。
「ナビーはどうしたほうが良いと思う?」
「そうだな、会いたくても会えないのがキジムナーだから、これはチャンスなのかもしれないねー。最大限に注意するとして、会ってみてもいいかもしれないさー」
「ナビーが言うならそれでいいよ。琉美もいいよね」
「うん。私、キジムナー見てみたい!」
「わかった。ついておいで!」
俺たちの答えを聞いた
「キジムナーに会ってもらう前に、
棒立ちで立っていた俺たち3人と1匹に向かって、杖を構えたハーメーマジムンに加え、ミシゲーとウッシーも一緒に襲い掛かってきた。
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