第21話 ノロになる

 午後5時に花香マンションに着いた。


「ただいま戻りました」


「あら、ほんとに早く帰ってきたのね! まだ、琉美さん待たせているから、これからのことを話し合いましょう」


 リビングに行くと、金城琉美きんじょうるみが立ち上がって挨拶してきた。


「お久しぶりです。これから、よろしくお願いします!」


 ナビーがすぐに近寄り、手を取ってゆすった。


「仲間になってくれて、よかったさー。ゆたしくねよろしくね! じゃあ、座って話そうねー」


 4人でソファーに座ると、金城琉美がきいてきた。


「皆さんのことを、何とお呼びしたらいいですか?」


「私はナビーでこっちはシバ。それから花香ねーねーって呼んでちょうだい。逆に、何て呼べばいいね?」


「琉美って呼んでください。さんもつけなくていいですから」


「いやー……流石に、俺が琉美って呼ぶのは抵抗があります……」


 花香ねーねーが馬鹿にしたように言ってきた。


「シバ君って意外とピュアなのね。女の子に名前呼びが恥ずかしいなんて」


「そうじゃなくて! 年上の女性を名前呼びするのが抵抗あるだけです!」


「はあ? 私のことはナビーって呼んでるだろ!」


 ナビーが年上ということを忘れていた。でも、ナビーをさん付けは違う気がする。

 ナビーの言葉に、琉美が反応した。


「え!? ナビーの方が年上なの? 私は18歳だけど、もしかして、私より上だったりします?」


「私は20歳だけど、気にしないでいいよ。これからは仲間だからね!」


「シバ、は何歳なの?」


「俺は3日前に18歳になったんで、る……琉美の1学年下ですね」


 花香ねーねーが声を荒げて言った。


「何で言わなかったのよ! 祝いそびれたじゃない!」


「この年になって、誕生日はもういいですよ……」


「この歳って、まだ18歳で何言ってんのよ! そうだ! 琉美の歓迎会とシバ君の誕生日を一緒に祝いましょう」


 寿司やピザなどの出前を取って、小さなパーティーをしながら今後の話し合いをすることになった。

 早速明日から、琉美がここに引っ越してくることや、マジムン魔物退治生活の流れを説明した。

 お金の面は、俺と同じように生活費とは別に、給料をもらえると知って喜んでいた。給料なしの覚悟だったらしく、バイトを探そうとしていたようだ。

 それにしても、花香ねーねーは、自分の収入から生活費や給料を文句も言わず払っているので、本当にすごい人だと改めて思う。



 2019年4月14日、午前10時。

 琉美の家から生活に必要なものを、花香ねーねーの車で運んでもらい、無事に引っ越しが完了した。

 今はマジムン魔物の反応がないので、何もすることがなかったが、ナビーがある提案をした。


「そうだ! 琉美を連れて、アマミキヨ様とシネリキヨ様のところにあいさつに行こう。聞きたいこともあるからよ。2人で言ってくるから、シバは待っててね」


 行かずに済んでよかった。正直、あの神様たちはめんどくさい。

 俺は琉美が入る部屋のかたずけでもしておこう。





「え!? このこがあの時のシーサーなの?」


「そう、シーサー化した白虎に乗って、浜比嘉はまひが島に行くよ」


 私も小学生の時に作ったことがある面シーサーを白虎にかぶせると、国際通りで見た大きなシーサーになった。

 ナビーの後ろに乗るとすごい速さでかけていく。

 ジェットコースターは好きなので、すごく楽しい。

 とくに、海中道路は海の上を進んでいるようでとても気持ちよかったが、速すぎて直ぐに目的地に着いてしまった。


「神様を呼ぶから、一緒に祈ってね」


 神様のことは半信半疑だったけど、見よう見まねで拝んでみると、ギャルっぽい口調の声が聞こえた


「顔上げてイーヨー!」


 水色の長髪で透き通るような白い肌の美しい女性と、緑色の髪を結んだイケメン風の男性が現れた。


 ナビーががらにもなく、かしこまったように話し始めた。


「アマミキヨ様、シネリキヨ様、今日は新しい仲間を連れてきました」


 女性の神が口を開いた。


「もうあいさつに来てくれたんだね! あーしの名前はアマミキヨ。アマミンって呼んでちょーだい!」


「はじめまして、お嬢さん。俺はシネリキヨ。シネリンでいいぜ!」


「は、はじめまして、金城琉美と申します」


「ちょっと! ナビーちゃんも琉美ちゃんもフランクにいこーぜ。で、ナビーちゃん、今日は琉美ちゃんをノロにしてほしくて来たんでしょ?」


 ノロってたしか、ナビーと花香ねーねーがそうだって言っていた、ユタみたいなものらしいけど、私もそれになれるのだろうか?


「流石、シネリン様。お見通しだったんですね。協力してもらえますか?」


 アマミンが私の頭に手を置き数秒の沈黙の後、今の私のことを教えてくれた。


「琉美、あなたはセジ霊力を扱う力を持っているけど、この力はユタの力だね。ユタは先祖から力を受け継ぐことがあるのだけど、あなたの場合は祖母から受け継いでいるようね」


 亡くなったおばあちゃんは、どこにでもいる普通のおばあちゃんだったので、不思議に思った。


「え!? 私のおばあちゃんが、ユタだったってことですか?」


「ユタの力を持っていただけで、それに気が付かないままだったようだね。その力があなたに受け継がれて、あなたは才能があったから、開花したってとこかな」


「でも何で、ユタの力があるのに、ノロにならないといけないんですか?」


 シネリンが説明を始める。


「ノロとユタは、カンダーリーという病にかかることがあるんだけど、ノロの場合は神である俺たちが治したりできるんだ。でも、ユタの場合は力の供給源が神じゃなくご先祖だから、俺たちの管轄外かんかつがいなんだよ。ユタ同士なら解決できるはずだけど、正しく力を使うユタがいるのかどうかわからないからね」


「あなたは才能があるからノロにして、あーしらが見守ってあげたほうが、あなたにとってもあーしらにとっても都合がいいのよ」


 正しく力を使うユタがいるかどうかわからない、という言葉に私も同感だ。実際に相談に行って、解決しなかった経験があるので痛感している。

 こんなに私のことを考えてくれているこの神達は信頼できるので、身をゆだねることにした。


「わかりました。アマミン様、シネリン様。私をノロにしてください!」


『かしこまりー!』


 ナビーに言われた通りに、正座をして目を閉じ、目の前の神に感謝を気持ちを込めて祈る。


『届きました、あなたの気持ち。金城琉美。あなたをノロとして認めましょう!』


「ありがとうございます!」


 目を開けると、ナビーが私の手を取って喜んでいる。


「よかったねー! でも、これからも神に感謝をしないといけないよ! 力をくださり、ありがとうごさいます。この地を創ってくれて、ありがとうございますってね」


「うん! ナビー、これから、ノロのこといろいろ教えてね!」


 シネリンが手を叩いて注目させた。


「よし! 祝杯だーって言いたいところだけど、なんだか雲行きが悪くなりそうだね」


 ナビーの表情が曇り、アマミンとシネリンも硬い表情になっていた。


「どうかしたんですか?」


「那覇あたりかな? マジムン魔物が出てるね。早く向かってあげて、被害が出ている様だから」


 最後にナビーが、慌てながら相談した。


「すみません。相談なんですが、戦闘時だけでも一般人に視認されないようにできないでしょうか? 見られていることで戦いにくいことがあるので……」


 アマミンがナビーの首にかけている勾玉に指をさした。


「その勾玉にセジ霊力を少し流せば、かけている人にセジがまとうようにしておくね! そしたら見えなくなるから安心して!」


「ありがとうございます! それでは、行ってきます」


「待って! 最後に俺から黄金クガニ言葉を……」


「もう黙れしー! いいよ、気にしないで行ってちょーだい」


 最後のはなんだったのか? ナビーが胸をなでおろしていた。


 マジムン出現地に向かう前に、シバに連絡を取ろうとナビーがスマホを持った時、丁度シバから電話がかかってきた。

 ライジングさん? からまた石敢當いしがんとうが壊されたと連絡が入ったから、1人で現場に向かったらしい。

 多分、目的地は一緒なので現地で落ち合うことにした。





 ライジングさんからの電話によると、また、前と同じ場所の石敢當いしがんとうが壊されていたから、初めて会った場所で待っているとのことだ。

 ナビーが電話で、那覇にマジムン魔物が出たと言っていたのが気になるが、俺には感知できないので、とりあえず現地に向かうことにした。


 集合場所に着くと、あの時と同じように壊された石敢當いしがんとうのすぐそばで、ライジングさんが1人倒れていた。

 すぐに駆け付けたかったが、マジムンの姿が見えないので周辺を警戒し、安全を確認して、安否確認をした。

 ライジングさんはマブイを落とされているようなので、ナビーたちが来ないとどうしようもない。

 マジムンがいないということは、ナビーが感知してここにたどり着けないと思い、電話をかけようとしたが必要なかったようだ。


 ナビーと琉美をのせた白虎がすごい速さで駆けつけた。


マジムン魔物はシバが倒したのか? それに、ライジングがやられてるさー」


「それが、マジムンはいなくて、こいつが倒れていたんだよ……それより、早く治してあげて」


「そうだな。ちょうどいいから、こいつを琉美の練習台にしようね。琉美、こいつに前やったように、マブイグミしてごらん」


「えっ! で、できるかな……」


「だいじょーぶ! ばっぺー間違えてもいいやつだから」


「よくねーだろ!」


 琉美は緊張しているように見えたが、直ぐに覚悟を決めてマブイグミを始めた。


「なあ、ナビー。こんなに早く任せていいのか?」


「別にできなかったからと言って、こいつが死ぬわけでもないからな。時間がかかるようなら、私がやればいいさーね。それに、経験を積ますには実践しかないからよ」


「それよりも、ライジングさんのマブイを落としたマジムンは、どこに行ったんだろうな」


「私が感じた気配は数分で消えたから、シバが倒すには早すぎだと思っていたけど、やっぱり違かったんだね」


「それに、また石敢當いしがんとうが壊されているってことは、大量発生する可能性もあるんじゃ? 今は何も感じないのか?」


「うん……でも、ライジングが起きたら何かわかるかもね。今は、琉美を見守ろう」


 琉美がマブイグミを始めて10分後、ライジングさんがパッと目を覚ました。

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