第22話 前任者
「ああああああああああ!」
「きゃっ!」
ライジングさんは、叫びながら飛び上がり周りを見渡すと、俺たちがいることに気が付いて落ち着きを取り戻した。
急に起き上がられたので、
「おい、大丈夫かライジングさん。何があったんだ?」
「ああ、ごめん、ごめん。もう大丈夫だ。シバとナビーちゃん来てくれたんだね。実は、壊された
ライジングさんはマブイグミで起き上がったので、確かに
「襲われたって、そいつが見えたのか?」
「なんだよ、その質問は。まあ、そいつは空手経験者みたいで、パンチが見えないくらい速かったけどね」
「戦ったのか!? どうやって?」
「戦ったってより、逃げ回った感じだね。1分くらいよけられたんだけど、最後に顔面を1発……ってあれ!? やられたはずなのに、全然痛くない……夢だったのか?」
たぶん、変なものが見えたと言わないので、
ナビーなら何かわかるのではないかと尋ねようとしたが、難しい顔をして考え込んでいた。
「ナビー、どうかしたのか? もしかして、心当たりでも?」
「心当たりも何も、特徴を聞く限りもしかしたら前任の奴かもしれないさー」
「前任って?」
「言ったことなかったっけ? シバと組む半年前に、仲間だった空手家がいたわけよ。そいつかもしれないさー」
前任者がいたことは初耳だ。
東京で就職するも、出世の波に乗れなかったことに嫌気がさして沖縄に帰ってきたが、仕事を見つけずに実家に引きこもっていたところ、ナビーが勧誘して仲間にしたという。
空手経験を生かす戦闘スタイルで、
「でも、決めつけるのは早くないか? そいつをライジングさんに見てもらって、確認が取れたら捕まえようよ」
「そうだな……決めつけはよくなかったさー」
琉美とライジングさんも話に加わった。
「そういえば気になっていたんだけど、君はどちらさん?」
「新しく仲間になった、琉美といいます」
「俺は
ナビーが2人の会話をさえぎるように言った。
「それはどうでもいいけど、ライジング。
「もちろん! あんな危ないやつ早く捕まえないと、何するかわからないからね」
「これからそいつの家に行くけど、私とシバの2人で接触するから、琉美とライジングは気づかれないように物陰から確認して、結果をシバに連絡してちょうだい。2人とも、何が起こってもそいつがいなくなるまで出てきたらダメだからな!」
「わかった、気を付けてね!」
那覇市
この場所が見えやすい向かいのアパートの階段に、琉美とライジングさんが着いたことを確認した。
念のため白虎をシーサー化させて、琉美たちがばれても逃げられるようにしている。
「シバ。すぐに戦う可能性もあるから、ステータス確認しておいて」
Lv.31
HP 204/204 SP 190/190
攻撃力 220 守備力 209 セジ攻撃力 105 セジ守備力 100 素早さ 70
特殊能力 中二病
身代わり
特技
ヒンプンシールド Lv.6
「あれ? 特殊能力に新しく
「ティーアンダーは、
特殊能力【
取得条件:気持ちのこもった料理を作り、5人以上に心の底から満足してもらう
・作った料理に気持ちがこもり、相手に伝わる
・火系統の技の威力が2倍になる
・手が水をはじく
「すげぇ! 火系統の技が2倍って、すごい使える能力だ!」
「だったら、
多分、異世界琉球では料理をするのは女性で、戦うのは男性だからこの能力が戦闘に使われることがなかったのだろう。
「よし! インターホン押すから気を引き締めてよ。基本私が対応するから、シバは必要な時だけ受け答えればいいからね」
ピーンポーン! ……ガチャ
ドアが開くと、丸坊主が少し伸びたような頭に、
「剛、久しぶりー。元気だったね?」
「ナビーか、何しに来たんだ。僕とはもう関わらないって言ってただろ!」
「ごめん、でも大事な用があるからさ、ちょっと話を聞いてちょうだい」
剛はナビーの後ろに立っている俺を怖い顔でにらんできて、思わず目をそらしてしまった。数秒後、口を開いた。
「わかった。すぐそこに大きな公園があるだろ。そこで待ってろ。準備したらすぐ行くから」
言われた通り、近くにある大きな公園の隅にあるベンチで座って待つことにした。
ライジングさんから連絡が来て、やはり襲ったのは又吉剛で間違いなかったようだ。
引き続き琉美とライジングさんは、遠くから見守らせることにして、何かあった時に助けてもらうことにした。
「あの人、どう出ると思う?」
「まあ、自分のやったことがばれていると感づいて、十中八九襲ってくるはずさー」
「やっぱり戦うことになるんだな……でも、あの人は、
「剛は見える人じゃないから、セジが使えないと思うけど、ライジングのマブイを落としたってことは、
「あれは
「わからない……それに、マジムンの気配がないことが気になるさー」
実際に戦ってみないとわからないであろうことなので、今はいつでも戦える覚悟だけしておこう。
「ところで、あの人はどれくらい強かったんだ?」
「シバみたいには、
ナビーの本気を苦戦させる相手に、俺が勝てるのか心配になっていた時、又吉剛がやってきた。
「早速だけど、お前たちがききたいことの答え合わせをしよう」
剛は、空手の型を始めるように構え、深呼吸をして気合を入れている。
「今の僕なら、ナビー相手でもこれで勝てるだろう……
体内からにじみ出た薄黒い
「シバ! あれは
ナビーの言葉に、わかったと答えようとした時、剛は一瞬でナビーの目の前まで距離を詰めていた。
「ナビー、人の心配している余裕があるのかな?」
ナビーの胸部に肘打ちが入っているように見えたが、寸でのところで剛の方が技が当たらないように止めていた。
ナビーが左足で蹴りを繰り出すと、それをよけるように後方に飛び跳ねた。
「危ない、危ない。そういえば、
「剛! やめないか! 何でこんなことするのか? 何があった?」
「こんな楽しいこと、やめるわけないだろ。僕は、お前といた時より強くなった。この力で僕が沖縄を……いや、日本に混乱をもたらせてやるのさ。その一番の邪魔がナビー、お前だ! だからお前より強くなって戦おうと思ったら、まさか仲間ができていたとはな。しかも、こんなガキを……」
「シバを見てただのガキとしか思わないんだな。シバは、剛にできなかったことを簡単にこなしてきたけどね」
ナビーと俺は
これで、一般人に視認されないで戦える。
「いろいろできるからと言っても、強いとは限らないよね?」
今度は俺に向かって構えた剛は、右腕に
「
「ヒンプンシールド・
回避は困難だと感じたので、真正面にヒンプンシールドを3枚重ねて設置したが、剛の正拳で砕け散った。
これを食らっていたら、ひとたまりもなかっただろう。少しも油断できない。
「僕にできなかったヒンプンシールドをできたってことなのか。だからと言って敵ではない。こんなザコは気にせず、ナビーから倒したほうがよさそうだな!」
俺のことを見向きもせずにナビーに向かって行った剛。
そこにナビーが
剛が回避だけになった時、剛のよける場所を予想して俺がヒンプンシールドで壁を作った。それにぶつかった剛は
だが、全然食らっていないようだ。
「
すごい威圧を感じる。体に力が入り動きが硬くなっていることを認識してはいたが、力を抜く余裕がない。
それでもこちらに向かう敵意がそれることはないので、相手に集中して対応することだけを考える。
先程と同じように右腕に
もう、ヒンプンシールドは避けられるはずなので、正面から迎え撃つしかない。
足元の石ころを拾うと剛の足が一度止まりかけたが、そのまま向かってきた。
それを見て、
右手の石にセジを
剛はそんなのおかまいなしに、自分の攻撃が当たる距離まで詰めてきた。
「そんな技が俺に当たると思ってるのか!? 破せっ……!」
「
右手の
そのまま後方に5mほどはじきとんで、片膝をついている。
ナビーが駆けつけてきた。
「ナイスシバ! いい作戦だったさ! これからは、2人で一気にたたみかけようねー」
「今の
「ああ、さっきのは
そうか! 今の俺は、火系統の技の威力が2倍になっていたことを忘れていた。
剛は立ち上がり気合を入れなおした。
「今のは
「それじゃあ、手を引いてもらえないでしょうかね……?」
「やっぱりガキだな。これくらいで引くわけないだろ。んー……そうだな、このままでは僕が負ける。2段、いや、ナビーと同時に戦うと考えると足りないか……」
ブツブツ独り言を始めると、納得して最初と同じように構えて深呼吸をした。
「
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