廃病院

桜坂 透

第1話


 祝日の月曜日。午前二時半。僕らは噂の廃病院の入り口へとやって来ていた。

「さすが、夜中だと雰囲気あるねぇ」

 集まった五人の中で一番のオカルト好きである男子がにやにやとしながら呟く。

「そう?」

 呆れたように言う女子は廃病院を見上げている。

「たいしたことねーだろ」

 強気の口調で話す男子は懐中電灯で病院を照らしていた。

「じゅ、十分怖いよ」

 もう一人の女子は今にも泣きそうだった。

「下見の時はなんともなかった」

 僕は、ここに行くという話になった時、見事にじゃんけんに負け、下見役を任された。

 一人だったので、さすがに昼に行った。その時は、特になにも、怖いだとか、何かあるだとか、そういった印象なかった。しかし、夜中に来てみると、さすがにそれっぽく感じるものだ。

「じゃあ、早速行こーぜ」

 懐中電灯を持つ男子がすたすたと中へ入っていく。皆も後に続いていった。

「どう回って行く?」

「とりあえず地下から行って、順番に上がってこーぜ」

「おーけい」

 皆の会話を聞きながら階段に向かっていく最中、僕は猛烈な違和感に全身が包まれたような感覚に陥った。頭から、足の指の先まで。なにかを、忘れているような気がする。

 階段を降りて行く皆の様子を見つめながら、僕は足を止めて考えた。

 段々皆の声が遠くなっていく。

 そして、違和感の正体に気がついた僕は、一瞬にして恐怖のどん底に突き落とされた。


 下見に来た時、この病院に、地下などなかったのだ――。

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廃病院 桜坂 透 @_sakurazaka

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