国王悪魔に魂を売る

「くっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 国王は一人宝物庫で笑う。


「まさか、まさか、錬金術師一人をクビにしただけで、歴史のある我が国が滅びの危機に陥るとは思ってもいなかったわ」


 国王は宝物庫で一つのアイテムを手に取る。2000年前、勇者と魔王の戦争で残されたアイテム。魔王の宝玉。

 その宝玉には魔王の力が封じ込められており、それを解き放った際には、魔王の力を得る事となる。しかしその代償は使用者の持っている全てである。

 国王であるならば国を失うであろう。名誉も失うだろう。

 だが、このまま敵国に侵略されるよりは余程良い。国王はそう考えていた。敵にくれてやるくらいなら、全てをなくしてしまった方がマシだ。

 国王はもはや正気を保ってはいられなかった。


「さあ! 解き放つぞ! 魔王の宝玉を! くっくっく! あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 国王は宝玉を叩き割った。黒い正気が立ち込める。宝玉には強い魔力が蓄えられていたのだ。


「みなぎる! みなぎってくるぞ! 力が! 力がみなぎってくる! この力があれば敵国を退けられるぞ! 国民を魔族にしてしまえば、もはや疫病など関係がなくなる! 素晴らしいぞ! 素晴らしいぞ! くっくっくっく! あっはっはっはっはっは!」


 国王はもはや魔に犯されていた。国民を犠牲にし、魔族にする事など関係がなかったのだ。



 敵国との抗争の最中だった。


「ん? なんだ? あの黒い光は!」


 敵兵は王国アーガスが黒い光に包まれた事を感じた。


「あ、あれはやばい。きっとよくないものだ」


 敵兵は感じ取っていた。敵の司令官もそれを感じ取っていた。


「撤退だ! あれは魔族の放つ力だ!」


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 王国アーガスから多くの化物たちが攻めてきたのである。得体が知れなかった。


「くっ! やはり魔物か! 撤退しろ! 撤退だ! もはやこれは侵略戦ではない! 我々が侵略される側だ! 至急国に戻り防衛線を張るのだ!」


 敵兵は慌てつつ撤退戦をしていく事になる。


 

 王国での事。


「こ、国王……なんという事を。ああっ」

「うるさい。黙っておれ」


 魔物となった統括大臣はうなだれる。統括大臣は国王の力によりうごめく魔物となってしまった。


「次第に貴様の意識などなくなっていくわ。貴様は完全な魔物となるのじゃ」

「そんな、長年王国に勤めてきてこんな結末あんまりです。ううっ」


 統括大臣はうなだれつつ、最後は完全な魔物となっていった。


「くっふっふ。わしが聞きたいぐらいだったわ。なぜ錬金術師一人クビにしたくらいでこんな目に会わなければならないのかと。だがまあいい。今のわしは久しぶりに気分がいいわ。力に満ちているのだからの。くっくっく! あっはっはっはっはっは!」


 もはや魔城と化した王国アーガスに魔王となった国王の姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る