第2話
付き合い始めて三ヶ月が経った。
私たちは平日には一緒に登下校をして、週末にはデートをして、会えない時はSNSで連絡を取り合った。
雨の日には相合傘をしてみたり、晴れの日には日焼け止めを貸したりした。
共有する数多の瞬間の中で、彼の優しさや楽しさに触れ、私は少しずつ恋を積み上げていった。
「孝介」
「どうしたの、香子」
「元気?」
「あはは、なにそれ。超元気だって!」
話があまり上手くない私の会話にも、彼は満面で笑ってくれた。
あの時の告白、断らなくて本当によかった。
自然とそんな風に思えるようになるまで、私は彼のことを好きになった。
しかし反対に、彼は徐々にその温度を下げていった。
それは私を振り向かせることに疲れてきたからなのかもしれないし。
自分が好かれ始めたことによる安心感からなのかもしれない。
彼からの連絡の頻度は減っていき、いつの間にか私から連絡することが多くなっていた。
波というのは上がった時の最高点が高いほど、落ちた時の最低点が低いのだ。
***
それからさらに三ヶ月ともすれば、彼からの好意を全く感じなくなっていた。
孝介は様々な理由をつけては一緒に登下校するのを避けるようになり、休日も友達との予定で埋まっていた。
数分で返ってきていたメッセージも随分遅くなった。
「孝介」
「ん」
「元気?」
「……まあ」
たまに話をする時にも目が合わなくなり、笑顔も見られなくなった。
続かない細切れの会話を繰り返す。それもいつか終わって、私たちは無言になる。
彼は本当に私のことが好きなのだろうか。無言になる度、そんなことばかりが頭をよぎった。
今思えば、それは好かれていなかった訳ではなく、私と彼との大きすぎる温度差が1を0に見せていただけなのかもしれない。
ただ当時の私はそんな冷静な考えでいられる訳もなく、孝介からの好意を感じられなくなればなるほど、昔の彼を取り戻そうと躍起になった。
毎日懸命に彼の興味を惹きそうな話題を探してはメッセージを繋げる。
この会話を途切れさせてしまえば、私は孝介に忘れられてしまうんじゃないか。
そんな危機感から、私は必死に言葉を探した。
しかし、とうとう彼からの返信が来なくなる。
返信はしないのに平然とクラスで笑う彼を見るのは少し心が痛んだ。
それからしばらくの間。
私はベッドに寝転びながら、自分の送ったメッセージを見つめる日々を過ごした。
***
孝介からの返信が途切れても、私は何度かメッセージを送っていた。
忘れられたくない。その一心で。
そのメッセージに彼の言葉が返ってくる日も、返ってこない日もあった。
そしてついに私は思い切って連絡をするのを止めた。
返信を待つ時間の辛さに、勝手な期待をして勝手に傷つく痛みに耐えられなくなったのだ。
連絡を止めた当初は「これからどうなるのだろう」という漠然とした不安に襲われた。
彼との連絡は頻度の差こそあれ、付き合ってからほとんど毎日行なっていたからだ。
孝介のことを考えない日常が想像できなかった。
しかし、そんな不安は取るに足らないものであったことにすぐに気付く。
いざ連絡を取るのをやめてみると、それが自然に日常となったのだ。
孝介と繋がらない日々に慣れていき、彼以外のことを考える時間も増えた。
囚われてたな、と私は反省した。
そして不思議なことに。
私が連絡をするのをやめると、彼から連絡が来るようになった。
「元気?」
何の中身もない、ただ連絡したくてしたような文面だ。
ふふふ、と心中でほくそ笑む。
私の苦しみを思い知れ! とまでは思ってはいないが、すぐに返信するのは止めた。
その頃の私は海外ドラマにはまっており、ドラマの最中は何にも邪魔されたくなかったのだ。返信はドラマが終わってからすることに決めていた。
しかし稀に返信を忘れたまま寝落ちてしまうこともあって、その時は「ごめん、寝てた。昨日の私は元気だよ」と返した。
すると、すぐに「今日は?」と返ってくる。
私は海外ドラマの再生ボタンを押した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます