私たちはいつもすれ違ってばかりだ

池田春哉

第1話

 〝好き〟にも温度があって、二人が同じ温度になることは無いのだろうと私は思う。


香子きょうこのことが好きです。付き合ってください」


 高校の中庭で告白をされた時、間違いなく孝介こうすけの温度のほうが高かった。

 私はどうだったろう。嫌いではなかったはずだ。

 男女問わず下の名前で呼ぶ彼はクラスの人気者で、いつも明るく笑っていた。

 そんな彼を嫌う者はいない。

 

 では好きか、と訊かれれば、よくわからないというのが本音だった。


「返事、聞いてもいい?」

「あ、今すぐ?」

「時間が欲しいならそれでもいいよ」


 緊張のせいか、彼は額に汗を浮かべながら言う。表情も強張っていて、いつもの笑顔はどこにもない。このまま彼を待たせるのは可哀そうだ。

 それに、この返事にいくら時間をかけたところで私の中では何も変わらないだろう。

 

「……お願いします」

「え、マジで!」


 これまで恋愛経験のなかった私だが、交際というものに興味はあった。

 彼なら悪くないか。

 その程度の気持ちで、私は彼の気持ちを受け入れた。

 それだから彼のあまりに嬉しそうな笑顔に少し申し訳ない気持ちになる。


「うん、私で良ければ」


 あなたのことが好きではないかもしれない、私で良ければ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る