第十七話 スマイル3



春休み前の閉寮日にかねてより計画していた大島キャンプを決行した。寮にばれたら反省文どころか大ごとだろう。サブローが転学することになり親に事情を話して帰省前に最後の一夜を仲間たちと一緒に過ごすことにした。ダイスケの部活の同級生の父兄がキャンプ道具一式を車で自宅から運んでくれた。


唐津湾と高島が一望できる広場にテントを張ると皆で木々の小枝や落ち葉を集めて火を起こした。煙ばかりがでて皆でむせながら咳き込んだり涙を流したが誰もが目をあわせては笑いあった。穏やかな南風のなかに春の訪れを感じることができた。




中学生のころよくみんなで市内を探検した。いつだったか鏡山山頂から裏の山道を生い茂る林の中を下りふもとに辿り着いた。少し行くと大きな鳥居が見えたので水道の水を求めて鳥居をくぐった。森に囲まれた広い境内はいままで体験したことのない静寂さに満ちていて不思議な霊験を感じさせた。


神社の案内板を見つけるとここは遥か遠い古代に大陸に渡ったりいくさに行く者がつどい船に乗って出発していったことが記されていた。その出発を見送ったのは鏡山や大島の山頂だった。




今日を最後に僕たちはお互い距離を置くことを決心していた。学内で浮いた僕たちの言動げんどうがサブローを追い詰めることになった一因と考えたからだった。


いつのまにか日が暮れていくとパチパチと音を立てながら火の具合が落ち着いてきた。皆で鍋に水を入れて火にかけた。残ったペットボトルの水を回し飲みしながら一息つくとサブローコールが始まった。みんなで手拍子だ。サブロ~!サブロ~!たまにはみんなでサボロ~!!!


サブロ~~~!


-え~こんたび不祥事ばみんなにご迷惑ばお掛けしまして申し訳のう思うとります。


-本当にサブローは、言語能力が高いよな!いつも佐賀福岡弁が板につきすぎとー。

-ばってんあるふぁ、べ~たかし~たか、しぐまになるて考えるだけでくらくらする

 ばい。


みんなで笑い転げた。笑いすぎて涙が滲んできた。





いつしか空を見上げると春先には珍しく夜空一面に星が瞬いていた。展望台に出ると高島から対岸へ小さな街灯の光がどこまでも広がるように連なっていた。


夜が更けるのも忘れていつもまでもお互い思うことを話しあった。そしていつのまにか小さなテントで寝息をたてながら誰もが決して独りではないことを感じていた。


初めてこの地に来た時に最初に浴びた風景がいつまでも僕たちを包んでくれていた。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る