第六話 ドリーム2



小さいときに父を亡くした。父の実家はもともとN市内の裕福な貿易商だった。曾祖父が戦時中の学徒動員で山中の防空壕にあった軍需工場で働いていたことを親戚から聞いた。ある日作業をしていた時に強烈な一瞬の光を感じて外にでて空を見上げると虹のように美しい波紋はもんがいくつも空遠くに広がっていくのが見えたという。


一緒にいた学生たちと森の中を山を越えていくと一面になぎ倒された木々が広がっていた。いつの間にか雲に覆われた市内は何もかもが蒸発していた。異様な臭いと小雨のなか瓦礫の市電通りを辿たどっていくと会社のあったビルも家も跡形もなく消えていた。そしてそれ以上のことを語ることはなかったという。





小学校の時に母が再婚した。地元の名士だったその相手には自分と年端の変わらない甥や姪がいた。今にして思うと分け隔てなく子供たちには厳しかったのだったと思うけれど自分がなにか疎んじられているといつも感じていた。


小学校五年になると塾に通い始める友人が何人かいることを知った。寮のある学校があることも知った。塾に行くことを母に懇願すると父は志望校に合格することを条件に許してくれた。


一生懸命に勉強した。成績も合格圏内だった。しかし志望校には合格できなかった。ただひとつ合格した学校には行く必要はないと言われたが母がなんとか説得してくれた。父は顔をつぶされたとその学校の入学に関わることは一切なかった。



それからの季節休みは実家に戻ることはなく実の父方のY市の叔母の家に身を寄せることになった。そして親戚たちの話から発症すると実の父のようにいつまで生きることができるかも分からないことを知った。




誰かんために生きとーことが自分たちば生かしぇてくれるそんことだけは忘れんごと


叔母がよく言っていた。実の父と同じ病気になるかもしれないと思うよりそんな人たちの命を守りたいと考えるようになった。医者になることができればそうすれば父も許してくれるかもしれない。しかし合格圏内に入ることはなかった。時折起こる体調不良がそれを許してくれなかった。それでも多くの人の役に立つことができる仕事に就くために自分なりの将来をいつも考えてきた。


僕の願いはいつまでも健康でいられることだ。そして小さいころに母と見たテレビのように遠慮のない明るい家族が夢だ。









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