第七話 チェンジ2

勉強に打ち込むことを決心しながらも帰寮してからは気持ちを持て余していた。仲間と過ごす週末もどこか煮え切らずそんな自分に苛立いらだっていた。


そんな時、気を紛らせたくて近代図書館に一人で立ち寄った。ぼんやりと薄暗い吹き抜けのホールに入ると女性の彫像が目に入った。


佐用姫さよひめ


いつか皆と鏡山に登った時、展望台付近で佐用姫像を見たときにUFOから降り立った宇宙人のようなさまに恐怖におののいたことを思い出した。しかしこの佐用姫は見とれてしまうほどの美しい面持ちだ。近づいてよく見ると優しくも寂しげな眼差しがいつかの父と重なって見えた。




どれだけの時間そこに立ちすくんでいたのだろう。少しのあいだだけ泣いていたのかもしれない。そのままふらふらと広い階段を手すりに掴まって数歩上ると両脇の二階へ続く踊り場に一条の光が差し込んでいるのが見えた。きらきらと見える光の先に後ろ姿がみえる。


-お父さん?


そのまま最上階まで上がっていくと机が奥までならぶ広いフロア階にでた。学生服やセーラー服の姿も少なくない。廊下には席が空くのを待っているのか壁に寄りかかって参考書らしい本を見ている何人かの学生もいた。






高校生になってからは、時間があればこの図書館に来るようになった。いつしか学習室で言葉を交わす何人かの地元の友人もできた。


ここにも大学受験や就職に必要な資格を得るため熱心に勉学に取り組んでいる高校生がいる。商業や工業を専門に学ぶ高校生とも知り合った。母子家庭だから大学進学を断念したという学生もいる。そして彼らも近県の大手メーカーの工場や都市部の銀行に入るために学校の推薦を必要としているらしい。スポーツの部活で成果をあげることが一番いいんだけどしっかりと勉強してちゃんと仕事ができるようになるんだという。社会にでることを目の前に控えてそんな将来や夢のことを話す彼らの目はいつも輝いていた。


いつかの金髪のお姉さんを思いだした。あの頃のどうしょうもなく幼稚な自分に初めて向き合ってくれた人だった。そんな優しさに包まれたことがいまでも静かなさざ波のように心に拡がっていく。


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