第十四話 ドリーム3


小さい頃から憧れていた父のつとめる商社に入社した。日本でも五指ごしに入る会社だ。シンガポールでは小学生のときから塾に通った。父のように関西の有名な進学校に入ることを目指した。しかし海外で自由に過ごしていた自分がそこに合格することはなかった。父はそのことを全く気にしなかった。


ジブンがやりたいことを見つけることが大事やから今を思いっきり生きろ。時代は変わる。ジブンの生きる時代にとおさんの考えは通用せぇへんとよく言っていた。




シンガポールでは大好きな野球に打ち込んでいつも真っ黒だった。中学でも野球をやりたいというと思いっきりやれと言ってくれた。でもお父さんみたいになるにはいい大学に入らないといけないんじゃないかと聞くとなにさまを言うとるんやもっとしっかりジブンの勉強せぇと拳骨げんこつで怒られた。確かに学歴差はあるが日本はそれぐらいしか差別のない国や。世界は紛争や貧困の差別で毎日ようけジブンぐらいの子供が亡くなっとることを知らんのか。そんなことも知らんでしょーもないことを言うなと言われた。





憧れの会社で仕事をし始めたが同期の友人たちに違和感を感じ始めた。中高を地方の寮で過ごした仲間たちとは違っていてなにかしっくりとしなかった。なぜか冷たく感じる連中が多かった。そのためかいつしか同期からコネ入社と噂されるようになった。確かに要職に就く父がいたのでもしかしたらそうなのかもしれないと父に問いただしたことがあった。


コネやとしたらそれがどうした。やれる自信がないなら辞表をだせ。そう言ってあきれた様子でくだらんしょーもないと言われた。



そんな時ワタルと連絡をとった。ワタルは入社説明会に誘って一緒に面接を受けた中学からの親友だ。しかし内定を蹴って取締役をうならせたことを噂で聞いていた。そして就職に有利な大学院に進学する同級生たちを尻目にいち早くエンジニアリング会社に就職した。


-ダイスケ・・・確かに俺も仕事が辛いかもだ。週何日かは徹夜仕事をする。いつもは

 優しいトレーナーが仕事の現場では凄まじい気迫で鬼のような形相で駆け回って

 いる・・・


 それについていくのがやっとなんだ・・・。


 早く現場で一人前になりたい・・・高所作業から設備管理、その設計までいくつもの

 資格も必要だし学ぶことが多いから毎日がとても大切なんだ。





中学の頃から学校では将来自分が何になりたいのか職業観を問われた。自分の夢は決まっていたし将来の目標を持つことの大切さはわかっていた。自分の生き方に関わることだから真剣に考えろと父にも言われていた。


でも今は自分の夢が分からない。同期の連中は収入やステータス、社会的信用力などと言うがそれが一番に大切なことなのだろうか。



感じるこの違和感は何なのか。どうしたらみんな生きることにもっと誠実に向き合うことができるのか。ワタルが言うように本当に大切なことが何なのかそれを探し続けることなのかもしれない。




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