第十五話 スターダスト

夏の花火大会には、寮生総出で西の浜の空を見上げるのが恒例だ。遠くの空が宵闇に変わるころ最初の花火が打ち上げられる。夜空を覆いつくすほどいろとりどりの大輪の花火がゆっくりと広がるとどーんという音が遅れて聞こえてくる。


毎日学校に行くことが楽しかった。仲間に会うことが嬉しく、毎日が最高だった。担任の先生は厳しかったが大好きな先生だ。


仲間と一緒にやりたいことがいっぱいあった。高校生にもなるのに母親が熱心に成績のことを気にしたり連絡したりしてくることがわずらわしかった。今の自分に本当に大切なことを教えてほしかった。


パチパチと消えてゆく花火の残り火が星屑スターダストのような自分のやるせなさや淋しさを映しているようだった。





松林を彷徨さまよいながらブランコに乗って木漏れ陽の先の青空を見上げた。この時期ゆっくりと自由に空を舞うとびが見えた。そうだ歩いて家に帰ろう。ジャージのポケットに手を突っ込むと千円札数枚と五百円玉が入っていた。


大人になることが不安だった。大学に行く意味もやりたいこともどうして今決めなくてはならないのか分からなかった。





小さい頃よく遊んでくれた父はいつも家にいなかった。帰省したときも反抗ばかりしていたからか夜遅くに家に帰ってくるなり張り付けたような笑顔でお帰りと言った。自分の将来をどう考えるのか先生に言われても想像することが躊躇ためらわれた。


仲間たちと過ごすあの頃が楽しかった…いつまでもそこにいたかった…



海沿いにJR線に並ぶ道路を歩き続けた。今まで知らなかった風景や発電所の二本のおばけ煙突が遠くにうっすらと見えた。空にはとびがいつまでもついてくる。午後になり道路はJR線から海沿いに分かれていった。長い橋を渡ると海岸線に続く道を歩いた。西の浜では見ることのなかった海の上にかかる太陽が見えた。あかね色に染まっていく空を見ながら自分は何から自由になろうとしているのか分からず思い詰めていた。






何時間歩いただろう。海に浮かぶ鳥居とその先にしめ縄でつながれた二つ岩が見えた。立ち止まって海岸にでると暮れゆく水平線を眺めた。春が近いせいか星がよく見えない。


もう考えるのはやめようと思いながらなにか自然の風景に包み込まれるように寝転んで夜空を見上げた。自分は星屑のような存在なんだと思いながら波の音を聞いていた。肌寒さに震えながらいつのまにか睡魔が襲ってきた。このまま溺れて死んでもいいと思いながら眠りについた。



聞いたこともない旋律にあわせて幾人もの小さな天使たちが羽をはばたせながら頭の上をを描きながらゆっくりとのぼっていく。一条の光を感じて瞼を薄く開けると朝の陽が山間やまあいから差し込んでくる。


穏やかな波の音も聞こえてきた。早朝の誰もいない浜辺。遠くの車道に一台の車が止まるのが見えた。







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