第十三話 リスペクト


秋が深まるころ大学を卒業することなく赴任地である北海道のとあるまちに行くことになった。あらかた大学院にいくものを除いては大手のメーカーに内定が決まっていた。そんな卒業に向けて研究に没頭する学生と違い半年早く就職することに研究室の教授は難色を示した。教授の口利きによる会社の関連でインターンとして過ごしたところだったからそんな協定を無視した採用には納得できないという。


それでも就職するのであれば力になると言って単位の一部保留とそこの親会社の奨学金制度を調べてみると約束してくれた。





その街は、果てしなく原野が続く最果ての地だった。濃霧が流れていくとインターンを過ごした九州の地とはまったく異なる墨絵のような景色が広がっていた。


会社の寮につくと相変わらず二重窓の外は吹雪ふぶいていたが室内は暖かった。寮長に案内された二人部屋には先に送った荷物が片隅にきちんと置かれていた。少し安堵してからおかれたメモに気づいた。見ると入社おめでとう!と書かれた文字に続くのは歓迎会の案内だった。


人の気配は一切しなかったがあと数時間で食堂で開催されることに気がついた。取り合えず寝具を整えて日用品を取り出していると寮母さんらしき人が声をかけてきた。ごめんなさい歓迎会は延期だけど夕食は時間とおりに準備しますからねと伝えられた。




深夜遅くに同室らしき人が静かに布団を敷いて寝床に入る気配がした。うとうととしてそのまま寝入ってしまったが翌朝目覚めるともう姿はなかった。慌てて起き上がるとまだ六時過ぎだった。起き上がって身支度をしていると声をかけられた。


-〇〇さんですね。トレーナーを担当する△△です。七時からオリエンテーションを

 しますので食堂にお願いします。

-はい!〇〇です。宜しくお願いします。


一礼いちれいをするとにっこりと笑って後ほどと言って階段を下りて行った。






何か気恥しかったが食堂に階段を下りた。先ほどのトレーナーと言っていた人がパソコンから顔をあげて笑顔でほほ笑んだ。なぜだかすごく安心感を感じてまたおはようございますと一礼をした。


-おはよう。昨日は、歓迎できなくてごめんね。遠くの設備機械に不調があって大雪

 もあってみんなほぼ徹夜だったんだ。


-・・・


なんて言えば良いのか判らなかった。働くことや仕事が甘くないことは覚悟していたが・・・そんなにも大変なことなのか・・・。でも、いつものことだと言うような自然な口調だ。


寮母さんから食事について説明を受けていると次々と食堂に入ってくる人たちが僕を見ながらにっこりしたり一礼したりしている。


この人たちはきっと毎日とってもたっとことを成し遂げているんだろう。



誰かが今夜の歓迎会のビールはみるほど旨いだろうから楽しみだと言うのが聞こえた。







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