第十話 スマイル2



その女生徒が静かに鍵盤をかなで始めるとオージがつぶやいた。


-パッサカリア・・・   へンデル・・



夕暮れ時に桟橋に打ち寄せる西の浜のさざ波のような旋律だった。週末の小雨のなか体育館には十数人の生徒がいた。それぞれ距離を置きながら誰もが静かに耳を傾けていた。






寮を抜けだす騒動を起こした僕は退寮処分のなかオージとセイジに誘われて西の浜の桟橋に向おうとしていた時だった。松林から浜辺に出ると波打ち際にたたずむ女生徒がいた。僕をみると声をかけてきた。


-学校にも来てないから・・・   君のこと・・・話を聞いて・・・

 いつかはごめんね・・・。

 

そういうと笑顔でお互い元気でいようねと言われた。


なんなん。




中学の時から彼女は合唱コンクールでいつも伴奏をしていた。そんな時に聞いたこともないピアノ曲を弾いたり皆が知る曲の弾き語りをしたりしていた。医者の家系で医師になることを目指していることを知っていた。



終業式の日に先生から僕の退校だけでなくその女生徒も退校することが告げられた。

クラスの皆が驚いていた。理由は知る由もないが西の浜で水平線を見つめる眼差しと憂いた笑顔を憶えている・・・。


苦難にあうたびに・・・なぜか・・・元気にしているかなと思いだす・・・。





 

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