第九話 チェンジ3

みんなが高校進学に向けて評点や日頃の授業態度を意識する時期になっても親の心配をよそにセイジとつるんでいた。英語と数学の補習も相変わらずだったがさすがに英検の三級は頑張った。


二人して最後のチャンスでのギリギリの評価点だった。兎に角だ君らは口頭試験は、大きい声でしっかり挨拶して一語一語しっかり発音するんやぞという先生のアドバイスを守った。ばり緊張した。西の浜の大きな青空と海の景色が大好きだったから頑張れた。


ママに合格を連絡するとちゃんと高校に行けるようになったんだからしっかりと頑張りなさいと胸をろしているようだった。反省文も書くようなことがないようにちゃんとするのよと言われたのでうっせーなとキッズ携帯を切った。




その週末に食堂で昼食をとりながらセイジと分担した補習の答え合わせをふざけながらしていると数学の補習にいる女子じょしがあんたたちいつまでじゃれあってんのよ。そんなことで親に申し訳ないと思わないのと絡んできた。驚いて立ち上がって斜め向かいのテーブルに座る後ろ姿を睨みつけるとセイジにシーッ座れってと制止された。どこか腹の虫がおさまらなかったがその女子は食事が終わると立ちあがってこちらを横目で見ながらみんな競争なのよと言った。


-ゴマすりおんな


そういうと振り返りきっとした顔で睨みつけてきた。





部活にくじけた僕たちは時間を持て余していることもあって駅向こうにあるブックオフにマンガを読みに行くため寮をでた。明日の日曜日は二人で課題を埋め合わせなくちゃならない。




-セイジ・・・競争だっていうことは勝ち負けがあるってことだよな。考査の順位だっ

 て誰かが勝って誰かが負けてるなんてそんなこと思いもしなかったじゃないか。


-う~ん、ダイスケやワタルみたいに評点も良くて運動部で活躍していやつに比べる   

 とってことかもしれないけど・・・


-・・・ダイスケもワタルも誰かと比べることなんて絶対にしない。いつも仲間を大事

 に思ってるし、ダイスケだって甲子園にいくために試合に勝つと皆とめちゃくちゃ

 盛り上がるじゃないか。ワタルもテニスで活躍していて二人とも考査も・・・

-さっきの女子のことはもう気にすんなよ・・・誰にだってなにか事情があるんだ。 

 きっと。あの女子にだって・・・





-勝つことが大事ならなんでも仲間を蹴落とすやつらが出てくるじゃないか。いつか

 オージのことを発達障害みたいに言ってたやつらがいて悔しかったじゃないか。

 オージだって負けてたわけじゃない。いつも大事なことを教えてくれた・・・


 それに先生も言ってた。ウサギはカメのことしか見てなかったけどカメはゴール

 だけを見てたんだ。

 







セイジが寮に戻るというので独りで石垣の道から松林を抜けて西の浜にでた。秋も深まると見慣れた風景も夕暮れが早まるせいかうっすらとした夜空に星がまたたき始めている。


海岸線や島々の街灯がともりはじめると夜空の星が水平線に降り積もっていくようだ。なんでこの景色を見ていると遠くの島々や星々に憧れを感じるんだろう。


暮行く遠くの水平線を見ながら思いをめぐらせていると、突然、宇宙の無限性や未知への好奇心に心が震えてきた。そしてこんなにもちっぽけな世界で競争をいられる僕たちのことが哀しくてたまらなくなった。

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