第二話 チェンジ

夏休みが明けてこの一週間登校するたびに転入生の話題でもちきりだ。特に女生徒たちの熱狂ぶりは放課後に開け放たれた窓から一斉に鳴り響くセミの声と聞きまごうばかりだ。


高校の夏休みは八月 なかば過ぎにあけるからまだまだ夏真っ盛りだ。廊下の窓からは水平線からのぼる入道雲が見える。


海外の血筋をひくというすらりとした長身に色白の風貌とくせっ毛は確かに遠目にも目立っていた。英語の授業ではネイティブさながらも出身が英語圏でないからなまりがあると気取ったことを言っていたという。入部したサッカー部ではリフティングがまなかったらしい・・・


まぁ、関係ないけどね。




その週末にいつもの食堂の片隅で仲間と食事をしていると転入生が食堂に入ってくるのが見えた。佐賀弁ばいっちょんわかっとらんとサブローが言い放った。中学に入学したころおまえも激怒する先生に何を言われているのか分からず途方に暮れてたからな。そんなことを思い出していると転入生がなぜか俺たちのテーブルにまっすぐに歩いてきた。そして朝食のプレートを持ったまま俺たちを見回した。


-ダイスケ!


嬉しそうに俺の名前を呼んだ!


セイジが頬張った顔を参考書からあげると今度はセイジだろ?!と言った。皆ポカンとしていると一つだけいつも空けている席にゆっくりと座った。ワタルがそうだと思ってたよとクスクス笑った。


-ほんまか!

-オージなんか!

-オージか!


皆で口を揃えて大声で言うと様変わりした風貌の中にも確かに昔の面影があった。周りの生徒たちがびっくりしたようにざわつき始めひそひそと耳打ちしながらこちらを眺めているのが見えた。




-転入して初めて食堂に入った時、この端っこのテーブルが目に入ったんだ。いつも

 ひとつあいた席。


 誰が座る席なんだろうか・・・そのうち周りに座っているみんなのことといつも空け

 られているこの席の意味に気づいたんだ。・・・もしかしたらってね。


-オージなんか・・・信じられん。

 どうしてすぐに・・・


オージが軽く片目をつぶってほほ笑んだ。遠くのテーブルで女生徒たちがキャーと嬌声をあげて騒ぐのが聞こえた。


-おいおい、ちょっとすごい人気だな。

-噂には聞いとったが・・・

 そがんチャパツで大丈夫なんか。

-天然だからね。ここ数年ぐらいで急におじいちゃんの影響がでてきたんだ。


-はぁ~、高校生とは思えんしこんな田舎にゃおれへんな。



-このテーブルに最初に集まった日のことをいつも想っていた・・・


こんにちは、だれか友達になってよ、僕はずっとひとりぼっちなんだ。そう言おうとしたとき・・・ 




-とにかく去年この学校に戻ることを決めた。両親を説得するのに多少難儀はしたん

 だけどね。



食堂を出ると信じられない再会をした五人の仲間たちは昔のように肩を組みながら薄暗い廊下を練り歩いた。これから浜辺に行こうとサブローが言ったがワタルと俺は部活だしセイジは近代図書館で学習会だ。


-僕も部活なんだ・・・早く日本の湿気と潮風にある魚のにおいに慣れなくっちゃね。

 ・・・ごめん。


-よかばいみんないそがしかじゃろうけん。


サブローはガックシとうなれながらまたゆっくりオージと集まろうと言ってロビーに向った。サブローは、高校からもさらに勉学に身が入っていないようでサボローと自分を茶化しながらも評点も著しく悪化しているようだった。反面ぎりぎり高校に進学したセイジは中二からの教科書をひたすらやり直すことで遅れを取り戻していた。


それでも俺たちはみんなで同じ大学に行くんやと思っていた。  

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