襲撃

 最初の対面を終えた僕は、公園を離れ、ジョギングを再開した。アパートに戻る前に、商店街に行き、布袋像に参拝した。帰宅後、汗を拭ってから、長谷川のオフィスに電話をかけた。ほとんど待たされることもなく、黄金時代の野沢那智そっくりの声が耳に流れ込んできた。

「もしもし」

「俺だ」

 不思議なことに長谷川と話す時はいつも「僕」から「俺」に変わってしまうのだった。口調も態度もかなり伝法になる。

「魔宮か。どうした、急用か」

「さっき、虻沼狂山に会った」

「なにっ」

「と云うか、向こうから会いに来た」

「へえ。滅多にないことだぜ、それは」

「あんた、あの日の翌日に狂山の屋敷に単身丸腰で乗り込んだそうだな」

「ああ。結局、そうするのが最善の方法だと思ったんでね」

「怖くはなかったのか。その場で消されるとは考えなかったのか」

「そりゃ、怖いさ。だが、俺にはささやかな確信があった。コガネマンの発言は『ウソで作られている』という確信がね。あいつは人を騙すために生まれてきたみたいな男だからな」

「……」

 俺は刹那沈黙し、それから、再び喋り始めた。

「脱帽するよ、元締め。俺にはとてもあんたのようには振る舞えない」

「やれるさ、おまえなら。同じ立場なら必ずやっている」

「無理だ。俺に勇者の役は務まらない。俺の芸(演技力)を超えている」


「栗枝左門は話題に出たか」

 長谷川が尋ねてきた。

「出た。やつは今、どこにいるんだ?」

「わからん。三人衆が追っているが、居所が掴めん」

「あんたと栗枝左門は『若手ナンバーワンコンビ』と呼ばれていたそうじゃないか」

「大昔の話だ」

「かつての相棒と殺し合いか」

「世の中とはそんなようなものさ。弁解をするわけじゃないが、喧嘩を仕掛けてきたのは左門だ。売られたからには、買うしかあるまい」

「それがあんたの…長谷川豹馬のやり方だったな」

「そうだ。だがな、魔宮。俺は…」

 

 どかあああああん。ずがががあああん。


 その瞬間、受話器を介して、爆発音と破壊音がいっしょに届けられた。


「何事だ!」

「お客が来たようだ」

「客だって?まさか、栗枝左門か?」

「そうらしい。派手な御到来だ。相応に迎えてやらなくてはなるまい」

 長谷川の声は恐ろしいほどに落ち着いていた。全盛期のアラン・ドロンに酷似した端整な顔。あの不敵な表情が俺の脳裏に浮かんだ。

「元締め!俺はどうすればいい。俺にできることはないか」

「おまえは引き続き、休暇を楽しめ。約束の金は昨日振り込んでおいた。騒ぎが収まったら、こちらから連絡する。いいか、魔宮。何があっても、おまえは動くな」

「元締め!」

「生き延びたら、また会おう。今度は牡蠣グラタンを食わせてくれ」


 そこで、電話は切れた。

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