提案

 自宅近傍の名物公園。なまず池の畔に設けられた休憩スペースで、僕は「帝王」に会った。全ハンターが畏怖する闇の暴君、虻沼狂山と。これは偶然ではない。彼の方から出向いてきたのである。

 狂山ほどの超大物が、どうして、一介の歩兵(ソードマン)などに興味を抱くのか、僕にはさっぱりわからなかった。


「あんたに一言詫びたいと考えてね。こうして、のこのこやって来たというわけさ」

 僕の心を見透かしたみたいに、狂山が話しかけてきた。穏やかな口調だったが、声に隠し切れない凄味があった。

「お詫びしていただく理由が、僕には思い当たりませんが……」

「コガネマンのことだよ」

「えっ」

「あんたには大変な迷惑をかけた。あれの暴走を止められなかったことについては私にも責任の一端がある。こうなる前に始末をつけておくべきだった。すまなかったと思っている」

「……」

「あれは技量的には三流以下だが、おかしな武器をいっぱい持っている。幸い、あんたは腕が立った。しかし、そうではない他のアルバイトハンターなら危なかったかも知れない」

「コガネマンはあなたの命令で僕を殺しに来たと云っていましたよ」

「それはウソだ」

 狂山は即座に否定した。

「では誰が」

「私と長谷川君の両方に怨みを持つ者がいてね、コガネマンは『そいつ』に操られていたのだよ。私が云うのもなんだが、あれは半ば狂っていた。精神的にも、経済的にも、相当追い詰められていたらしい。私の名を迂闊に使えば、どういう運命や結果を招くのか、その程度の想像さえできなくなっていたのだよ」

「コガネマンは生きているのでしょうか?」

 狂山は逞しい両腕を胸の前で組むと、首を横に振った。

「私の配下に調べさせているが、おそらくこの世の者ではあるまい。万一生存していたとしても、再起不能。廃人同然の状態だろうね」

「……」

「気に病む必要はないよ、魔宮さん。あんたは自分の身を守っただけだ。やらなければ、やられていた。正当防衛だよ」


「時に魔宮さん。あんたはテレビや映画には出ないのかね。アングラ芝居とは、そんなに面白いものなのかね」

「はあ」

 僕には僕なりの役者論(ポリシー)があるのだが、それは黙っていた。

「あんたの生き方に意見をするつもりはないが、どうだね、この辺で本業と副業を入れ替えてみては。あんたにはカリがある。可能な限りの協力はしよう。もっとも、長谷川君が簡単には手放さないだろうが……」

 意想外の発言だった。僕は大いに戸惑いつつ、

「あの、それはつまり、虻沼組に入門しろということでしょうか?」

 狂山は頷くと、

「あんたには素質がある。一流のスライムハンターになる才能がね。精進次第では、ビッグ・ファイブ加入も夢ではないと私は思うよ」

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