撃滅
撒き餌の効果は覿面だった。池の底から姿を現わしたグリーンスライムに対して、水中のセーコは、特殊銛を発射した。狙い過たず、セーコの銛は化物に命中した。だが、どういうわけか、爆発が起きない。ミス・ファイア。セーコの銃に装填されていたのは、百発に一発、あるかないかの、不発弾だったのである。
手負いのスライムが、恐ろしい勢いでセーコに迫って来た。並のハンターなら、パニック状態に陥るだろう。しかし、彼女は違った。獲物を捕獲するために繰り出されたスライムの舌に、なんと、自分の方から咬みついたのである。コブラの牙に切り裂かれた舌から、血潮が噴き出し、水の色を変えた。
その頃には、セーコの右手に、護身用に持参したダイバーナイフが握られていた。次の瞬間、セーコのナイフが、蛇牙に損傷を受けた化物の舌を完全に切断していた。再び血潮が噴き出す。苦悶の波動を響かせながら、スライムは水面を裏側から突き破り、虚空に跳ね上がった。
スライムが、池の中ではなく、池の上に逃げたのは、酸素の補給のためでもあった。スライムは泳ぎが得意だが、水中呼吸の器官を有しているわけではない。定期的に浮かび上がり、空気を吸い込む必要があるのだ。
空中に躍り出したグリーンスライムを舟上の小太郎が待ち構えていた。Bクラスとは云え、セーコが相棒に選ぶほどのハンターである。さすがに落ち着いていた。そして、このチャンスを見逃す筈もなかった。
標的を視界に捉えざまに、小太郎はトリガー(引金)を引いた。射出された銛が、吸い寄せられるみたいにして、スライムの胴体に突き刺さった。着弾と同時に、先端の仕掛けが作動した。次の瞬間、起爆音が轟き、化物の体がバラバラに砕け散った。断末魔の波動を発することさえも許されず、なまず池のモンスターは棲み処の上空で絶命した。
大小無数の肉片が、広範囲に撒き散らされ、池水に沈んだ。今度はやつの肉が魚の餌になる番だった。戦いの行方を見守っていた捕殺作戦のメンバーたちの口から、怒号にも似た驚喜の声がほとばしっていた……。
僕の眼前に、なまず池のなめらかな水面が広がっていた。一時期、グリーンスライム(大型)の根城と化していたなまず池だが、セーコと小太郎の活躍により、化物は退治され、以来、池の平和は保たれている。
僕は携帯ラジオを取り出すと、ひっかけタイプのイヤホンを左耳にかけた。源シオールがパーソナリティを務める『魔少年の時間』のアンコール放送を聴きながら、なまず池の遊歩道を歩くのが、僕の日課なのである。
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