名所
コースの中間点にある公園を目指して、僕は走り続けた。途中、処理業者の特殊車両と幾度かすれ違った。同車両の「ヘル(地獄)タンク」と呼ばれる部分には、スライムの死骸が大量に詰め込まれている。回収された死骸は、都内各所に設けられた処分場に運び込まれ、一括焼却される。
莫大な処分費用の削減という意味も含めて、各国で「スライムの死体を有効利用できないか?」という研究が続けられている。しかし、農業用肥料を除けば、今のところ、目立った成果は上がっていない。
現在、最も力が注がれているのは「死骸の燃料化」である。これに成功すれば、スライムは貴重なエネルギー資源となる。原発解体後の新しい発電エネルギーとして、大いに期待されている。残忍貪欲な食人モンスターが「世界を変える」可能性を秘めているのだ。
ジョギングを続行しながら、僕は今朝の夢について考えていた。ゲームの最後に登場した「源シオールの姫姿」はあまりにも強烈であった。確かに彼は常人ではない。性別を超越したかのようなその美貌は、著しく現実離れしており、支持者たちが頻繁に口にする「神レベル」という評価も、決して誇張表現ではない。
白状すると、僕も自分の容姿に自信を持ち、自惚れに酔っていた恥ずかしい…いや、愚かしい時期があった。仮にそれが本当だとしても、所詮、僕などは人間水準である。シオールの領域にはとても及ばない。
シオールの出現は、芸能界を震撼させる爆弾であり、革命的「事件」であった。いわゆる美形タレントたちが、意気消沈したというのも、当然の成り行きと云えた。中には、その日に引退を決意した者もいたという。
玉子さんも指摘していたが、シオールの服装は意外にシンプルである。化粧の類いもほとんどしないと聞いている。天然の芸術品に余計な装飾は不要というわけだ。そのことに異存はないが、僕としては、コスチュームプレイヤーとしての才能も発揮して欲しいと考えている。どんなに派手な衣装でも、彼ならば、誰よりも完璧に着こなしてしまう筈である。
公園に着いた。僕は速度を緩め、通称「なまず池」を囲むようにして作られた遊歩道に足を進めた。なまず池は都内屈指の規模を有し、水深も深い。地域住民は勿論、都外からも来園者が訪れる人気スポットである。
僕が中学生の頃、なまず池に体長3メートルを超えるグリースライムが棲みつき、大騒ぎになったことがある。ボート遊びの最中、誤って池に落ちた父親が、子供たちの目前で食われるという悲劇が発生し、化物の潜伏が明らかになった。
公園封鎖の三日後、専門家数人が参加する大掛かりな捕殺作戦が展開されたが、失敗に終わった。そこにふらりと現れたのが、売り出し中(当時)のスライムハンター〔蛇頭のセーコ〕だったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます