塔
夢を見た。ゲームの夢だ。小学生の時分、盛んにやっていたRPG風味のアクションゲームである。ファミコン用カセットとして発売され、B級ながら、そこそこの売り上げを記録した商品だ。本物とは異なる部分が幾つもあったが、それらも含めて、楽しい夢になっていた。
最初僕は、アパートの自室で遊んでいたのだが、気がつくと、ゲームの世界に直接入り込んでいた。僕は「妖魔にさらわれた姫」を救出すべく、モンスターの巣窟たる「狭間の塔」へと向かうのだった。塔の内部は「病院の廃墟」を連想させるデザインになっていた。不気味ムード満点。
夢の中の僕、すなわち主人公(ヒーロー)は「騎士」ではなく「殺し屋…ソードマン」の格好をしていた。万能兜と密着鎧、そして、大小の刀。扱い慣れた武具を得た僕は、行く手を阻む怪物たちをバッサバッサと斬り伏せて、姫が監禁されている最上階(十階)を目指した。
十階の大広間で僕を待ち受けていたのは、鯨並の巨体を誇るクイーンスライムであった。決戦に際して、僕は温存していた切り札を投入した。最強の召喚戦士、コブラガールである。コブラガールの威力は期待以上のもので、何度もピンチを救われた。彼女の加勢がなかったら、返り討ちに遇っていたかも知れない。ありがとう、コブラガール!
コブラガールの助太刀に加えて、五階のボスであるコガネマンを倒した時にゲットした「かえんびん」も大いに役に立ってくれた。クイーンスライムの撃滅に成功した僕は、スライムが所持していた「かぎ」を使って、扉を開け、その奥に進んだ。ゲームクリアは目前だ。
円形の部屋に鳥篭型の牢獄が設置されていた。僕は「おおかなづち」を振るって、錠前を破壊した。囚われのプリンセスが、獄中から飛び出しざまに僕に抱きついてきた。姫役は源シオールであった。正確に云うと、星倉七美(ほしくらななみ)が姫に扮していた。
星倉七美とは、シオールの代表作『女装探偵』に登場する架空の人物である。事件解決や危機脱出のために主人公が変身…ならぬ変装した姿だ。アンドロギュヌス(両性具有)的な容姿を特徴とするシオールには、まさに打ってつけの役であり、放送当初から話題を呼んだ。終了後も女探(ジョタン)人気は衰えず、第二シリーズや劇場版の制作を求める声が少なくない。
どうしてここに、源シオール=星倉七美が出てくるのか、僕にもよくわからない。夢特有の破天荒な展開として、受け入れるしかなかった。
ファンの間で、最早神レベルと評された「スーパー美少女」が、僕の顔を見詰めていた。不思議なことに、七美の双眸に「再会の喜び」のようなものが浮かんでいた。
なんでもありの夢ワールドとは云え、理解困難な現象であった。初対面の相手にそんな感情を抱くはずがないからだ。あるいは、七美は、いや、シオールは僕のことを知っているのだろうか?
ありえない話だった。同じ芸能人でも、今を時めくトップアイドルとしがないアングラ俳優に接点なんてあるわけがない。なのになぜ?なぜ君は僕を知っているのだ?源シオール、君はいったい何者なのだ?君は……
感謝と祝福のキスを丁重に辞退したところで、僕は覚醒した。
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