最終回:ルシファーの復活

帰還

 俺は「家」に戻った。道中、肝を冷やすシーンが幾つもあったが、どうにか切り抜けることができた。これは俺の腕が良いと云うよりも、幸運が味方してくれた結果だった。もしかすると、時々参拝している布袋様の御利益かも知れない。名工の手による精妙神像は、我が商店街が誇る名物のひとつだ。


 門前にグリーンスライム(多分)とイエロースライム(おそらく)の黒焦げ死体が転がっていた。グリーンもイエローも、炭状に変化した形で息絶えていた。門扉に仕掛けられた「自動迎撃装置」が作動したのだ。電気ショックである。衝撃の強さは三段階になっており、第一は警告レベル。第二は失神レベル。そして、第三は殺害レベルである。これをまともに浴びたら、さしもの化物も命はない。

 俺は二死骸を無造作に蹴飛ばしざまに(ソードマンに変身中の俺は、どうもやることが乱暴である)門の前に立った。認証が済むと、電撃門が滑らかな動きで左右に開き始めた。


 俺は敷地内に足を進めた。玄関に行く前に、庭の一画に用意されている「洗浄室」に入り、万能兜と密着鎧に付着した戦いの…いや、殺しの汚れを洗い落とした。洗浄が終了すると、今度は強力な熱風が四方から吹き出す。完全乾燥まで、三分とかからない。まったく大した機械だ。

 洗浄室を出た俺は、兜を外し、鼻先に垂れた前髪を横に払った。それから玄関に進み、ソードマンの元締め、大スター長谷川がいる茶の間に入った。


「飲むか」

 俺の報告を聞き終えた長谷川は、傍らの小型冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのボトルを取り出した。

「ああ」

 俺はボトルを受け取り、封を切りざまに、中身の半分を流し込むようにして飲んだ。適度に冷えた水が、体の隅々にまで染み渡る。同時に「生きている」という実感が湧いてきた。これほど旨い飲み物は他にない。

「で、どうするつもりなんだ、長谷川さん」

 大スターは口辺に不敵な笑みを浮かべながら、

「どうもこうもない。売られた喧嘩は買うまでさ。だが、その前に確かめておきたいことがある」

「何をだ」

「コガネマンを操って、おまえを襲わせたやつの正体さ」

「虻沼狂山じゃないのか」

「俺は違う気がする」

「では、だ」

「虻沼組と俺たちを殺し合わせて、互いの力を削ごうと企むやつさ」

「心当たりでもあるのか」

「ある」

 長谷川は断定口調で云った。

「汚いやり方だ」

 俺が吐き捨てるように云うと、長谷川は再び笑った。

「若いな、魔宮。俺たちハンターは博徒(やくざ)の類いだぜ。縄張りを広げるためにはどんなことだってやるのさ。手段など選ばん」

「いっしょにするな。俺はやくざじゃない」

 云いながら、頭のどこかで「果たしてそうだろうか…」と考えていた。

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