威喝
「うるあーっ」
凶獣めいた喚き声を撒き散らしながら、コガネマンが猛然と斬りつけてきた。めいた?違う。こいつは本当の化物だ。人間の形をしたモンスターなのだ。俺の知る限り、こいつに関する噂の中で、良いものはひとつもない。特に恐ろしいのは「食わせ屋」をやっているという話である。
食わせ屋とは、処理に困った死体をスライムの群れに放り込み、地上から消してしまう鬼畜商売のことである。実際に見たわけではないが、こいつならやりかねない。
コガネマンにとって、最も重要なのは報酬であり、それを得るためならば、どんな汚い仕事でも平然と引き受けるのだ。今回、虻沼狂山が発令した(らしい)「ソードマン抹殺作戦」にも、嬉々として飛びついたのだろう。
コガネマンの刃をかわしながら、俺は逆襲の機会を窺っていた。一応の覚悟は決めていた。殺す気でかかってくる相手に対して、情けは禁物である。殺(や)らなければ、こっちが殺られる。死にたくなければ、斬るしかない。又、こいつを生かしておくと後々面倒なことになる…という怖い考えが脳内に浮かび始めていた。
昼間の魔宮遊太にはありえない発想だった。夜の遊太が昼の遊太をねじ伏せようとしていた。長谷川が望む「理想のソードマン像」に急速に近づいていることを俺は感じていた。
コガネマンの動作や太刀筋に鈍りが出ていた。横殴りに襲ってきた蛮剣をかわしざまに、俺はコガネマンの兜を大刀の峰の部分で強打した。凄い音がした。体勢を崩したコガネマンの顔面に、俺は追い撃ちの蹴りを浴びせた。こういう際、ヒーローショーで学んだ要領が役に立つ。何も考えなくても、自然に体が動いてくれるのだ。
鼻血の噴水を噴き上げながら、コガネマンが後方へ吹っ飛んだ。背中を嫌というほど、橋の欄干にぶつけたコガネマンが「ぎゃっ」と叫んだ。俺は憐憫の要素を口調に含ませながら、
「この辺で終わりにしないか、コガネマン」
反応はない。コガネマンは鼻血の滝を流しながら、毒々しい眼つきで俺を睨んでいた。俺は憎悪の視線を撥ね退けつつ、
「これ以上やるのなら、もう容赦はしない。あんたを殺して、刻んだ体を川にばら撒く」
俺としては、精一杯の脅し文句であり、最終通告のつもりだったが、やはり、反応はなかった。コガネマンは返事の代わりに、複数の虫歯を吐き出した。蹴りが命中した時、折れたものらしい。路面に転がった歯片に血の糸が絡みついていた。
「むっ」
視線を路面からコガネマンに戻した。変化が起きていた。コガネマンの右手が、剣ではなく、火炎瓶を握っていた。
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