黒幕
「…答えを聞かせてもらおうじゃねえか」
コガネマンが回答を迫ってきた。化物の両眼がギラギラと獰猛に光っていた。この外道と喋るのも飽(厭)きた。そろそろ打ち切りたい。本来の活動を再開したい。又、万一にもこいつの臭いがうつったら困る。
「黙っていちゃわからねえ。返事をしろい」
うるさいな。仕方がないから答えてやることにした。別に臆したわけではない。こいつから聞き出したいことがあるからだった。
「もうひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
ここでコガネマンは、周囲に響くような大層な舌打ちを打った。まったく不快の塊りみたいな男である。
「まだあるのか。なんでえ、云ってみろ」
「先ほど、コガネマンさんは『悪い話ではない』とおっしゃいましたね」
「それが、どうした」
「恐縮ですが、俺には途轍もなく悪い話のように思われます」
「なんだと……」
「この兜をお譲りしたとして、その後の俺はどうなるのでしょうか」
「礼金をもらって、幸せになるのさ」
あほか、おまえは。俺は噴火寸前の怒りを必死に抑えつつ、
「この兜は俺の所有物ではありません。現在属している組織に借りたものです。勝手に売却したら、俺は組織にいられなくなります。消される可能性だってある。そんな危険はとても冒せません。俺には無理です」
コガネマンは下品に鼻を鳴らすと、
「ふん。そんなに長谷川が怖いのか。心配は要らねえよ、あんちゃん。万端俺に任せておけ。大舟に乗ったつもりでいろ」
ふざけるな。そんな泥舟に乗れるものか。
「心配しなくてもいい理由を教えていただけませんか」
コガネマンは苛々した態度と口調で、
「けっ。随分気の小せえ野郎だな。じゃあ、教えてやる。その兜を売るということは、同時に『狂山に恩を売る』ってことなんだ。おめえのボスはもうおしめえだよ。狂山に眼をつけられてしまってはな。長谷川組に先はねえ。近い内に潰されるだろうよ。跡形もなくな」
「きょうざんって、誰ですか」
知っていたが、知らない振りをした。咄嗟の反応(アドリブ)だった。コガネマンが怒声に近い蛮声を張り上げた。
「馬鹿野郎、狂山と云えば、虻沼狂山に決まってるだろうが!」
「……」
その名を(フルネームで)聞いた瞬間、俺の体を戦慄が貫いていた。虻沼狂山。業界最大の怪物(フィクサー)として、全ハンターに恐れられている男である。現役最強の五人、ビッグ・ファイブでさえ、その例外ではない。政財界にも影響力を持ち、暗黒街との繋がりも深いと云われている。
クレイジー虻沼、闇の暴君、地獄の毒蜘蛛など、おどろおどろしい異名を持つ巨魁だが、スライム狩りを(商売として)世の中に認めさせ、定着させた人物でもある。その点では、大変な功労者と云える。起業当時は自ら前線で戦っていたらしい。スライムハンター第1号、それが、虻沼狂山だ。
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