「これは何の真似だ、おっさん。今度やったら冗談じゃ済まないぜ」

 俺は刀を片手中段に定めつつ、コガネマンに話しかけた。自分でも吃驚するほど酷薄な声だった。殺しのバイトを続けている影響だろうか。俺の言動も、だんだん博徒(やくざ)めいてきたようだ。コガネマンは口辺に薄気味悪い笑いを浮かべながら、

「そんなにいきり立つなよ。本気で斬りつけたわけじゃねえ」

「……」

 嘘をつくな。全力でやったくせに。

「だがな、あんちゃん。同業の先輩に対する敬意を忘れてはいけないぜ。町で会ったら、挨拶ぐらいはするもんだ」

「……」

 外道ハンターに下げる頭などないが、この場は従うことにした。

「大変御無礼しました。今後は気をつけます。では、狩りに戻ります。さようなら」

 俺は機械的にそう云うと、コガネマンから離れようとした。再度の吐き気が俺を悩ませていた。これ以上、こいつと関わっていると、本当に嘔吐する恐れがあった。一刻も早く、この橋を渡り切ってしまいたい。

「待ちなよ、あんちゃん。おめえに話があるんだ」

 俺は大儀そうな動作で、コガネマンに顔と体を向けると、

「せっかくですが、興味がありません。いささか先を急ぎますので、今宵は失礼します。さようなら」

「まあ、聞けよ。悪い話じゃねえんだ。どうだい、俺と取引をしねえか」

 取引だって?おまえみたいな化物と取引するやつなんて、この世にいるものか。

「駆け出しハンターの俺に、業界一の有名人たるコガネマンさんと取引できる材料があるとも思えませんが……」

「わはははは。業界一は誉め過ぎだぜ、あんちゃん」

 嫌味で云ってるんだよ、ばか。

「で、取引とは?」

 コガネマンは「けけけ」と笑うと、

「おめえのかぶっているその立派な兜な。それを譲ってもらいたいのさ」

 とんでもないことを云い出した。

「譲れと申されましても、今は夜です。頭部を露出させた状態で、スライムの版図を歩き回る度胸は俺にはありません」

「だからさ、明日の昼にでも、ここで落ち合おうじゃねえか。もちろん、無料(ただ)で寄越せとは云わねえ。相応の礼金(ぜに)は渡すつもりだ」

「はあ」

「嫌なのか」

「ひとつ、お尋ねしてもいいですか」

「何だ」

「仮にお譲りしたとして、どなたがこれをお使いになるのでしょうか。コガネマンさんですか」

「俺じゃねえ。そいつを欲しがっているやつがいるのさ」

「誰ですか」

「おいおい、そんなことを訊くなよ。依頼者の名はそう簡単には明かせねえ。それが業界のルール、鉄の掟だ。憶えておきな、男前のあんちゃん」

 簡単には…ということは、条件次第ではペラペラ喋るってわけだ。

「さあ、どうする。この話、乗るのか乗らねえのか、答えを聞かせてもらおうじゃねえか」

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