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腐臭と血臭が絶妙に混じり合っていた。明日の朝、このエリアを担当している「片づけ屋」は大変な苦労をするだろう。混合悪臭に耐えかねた俺は、逃げるようにして、その場を離れかけた。だが、できなかった。視野の隅に、何やら動くものを見つけたからである。
円筒形のゴミ容器が、滑稽な回転運動を演じていた。近づいてみると、理由がはっきりした。容器の中に「頭から突っ込んだ」形で、中型のグリーンスライムがおさまっていた。化物が容器から胴体を引っこ抜こうと、奮闘を展開していた。多分にマンガ的な光景であった。
「……」
俺は右手の刀を逆さまに構えると、容器ごめにスライムを刺し貫いた。化物が放つ苦悶の波動が、一帯の空気を震撼させた。刃を抜いた途端、激しい飛沫が舞い上がり、虚空に血の橋を架けた。肝っ玉を潰されたことを忘れたかのように、化物は路面で暴れ狂った。しかしやがて、嘘みたいに静かになった。俺は刀身の血を払いざまに、刀を鞘におさめた。
住宅街を離れ、スクランブル交差点に足を進めた。この時間帯、全ての信号は機能を停止している。無論節電のためである。緊急車両以外の通行は法律で禁止されているのだから、信号の意味はないというわけだ。
だが、どの時代、どこの国にも、ルールを守らないやつがいる。たとえば現在、交差点の真ん中で、複数の中型スライムに囲まれている軽自動車(の運転者と同乗者)も、その類いと云えるだろう。
「……」
俺は抜刀した。車の左側面に執拗な体当たりを繰り返しているグリーンスライムの背後に迫り、その脳天に刀を振りおろした。次の刹那、幹竹割りにされた化物の体から、血潮と肝っ玉が噴き出した。
屋根の上のイエロースライムが、俺に向かって、強力な溶肉性を帯びた毒液を吐きかけてきた。よけざまに、車の後方に回り、そこにいたグリーンスライムを強引に斬り伏せた。
右側面に潜んでいたグリーンが、闘牛同然に突進してきた。よける余裕はなかった。俺は刀を繰り出し、人間で云えば、眉間に該当する部分に刃を突き刺した。苦悶の波動を聞きながら、刀を抜き取る。刀身に血の糸が絡んでいた。絶命には至らないものの、相応のダメージは与えたようだった。化物の口から、大量の血液が波濤となって、体外に放出された。
「!」
俺はトドメの一撃を断念して、横へ飛んだ。本能的、いや、野獣的な行動だった。背面に難敵の出現を感知したのだ。次の刹那、屋根から地上に移動したイエローの毒液が、瀕死のグリーンに直撃していた。
俺は体を翻しざまに、イエローに斬りつけた。攻めるなら、今が好機だった。毒液攻撃は恐ろしいが、連続発射はできないのが、イエローの弱点なのだ。発射と発射の間にスキが生じる。それを突いた。俺は化物の頭を薙ぎ払いざまに、半ば露出した肝っ玉に刃を埋め込んだ。断末魔の波動と共に、イエロースライムが路上に崩れ落ちた。
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