毒獣
路面に大量の生ゴミが散乱していた。集積所の囲いをぶっ壊した二匹の大型スライム(グリーンとイエロー)が、太い舌を使って、ゴミの分別をやっていた。食えるものとそうでないものを分けているのである。このような光景を見るのは今回が初めてだ。
やつらも飢えているのだろう。近年、都民の多くが、夜間外出を控えている。夜の東京を歩いているのは、余程の事情を抱えている者か、ダークサイドの住人か、勇者部の連中か、俺たちのような殺し屋ぐらいである。まともな人間は、まず出歩いたりはしない。家にいて、夜が過ぎるのを待っている。それは、やつらにとって、餌食の不足に繋がるのだった。
「……」
俺は腰の大刀を抜き払いざまに、生ゴミ漁りに熱中しているイエロースライムの背後に忍び寄った。一撃で殺す必要があった。イエローは〔毒吐き〕の異名を持つ難敵なのだ。殺(や)り損ねると、厄介な展開になる。
俺が装備している万能兜と密着鎧は、イエローの毒をはじき返す性能を有しているが、頭や体に、異臭を帯びた毒液を浴びせかけられるのは、あまり気持ちの好いものではない。
迫りざまに、右手の刀を敵の背中に急角度で潜り込ませた。肝っ玉を貫く確かな手応えがあった。刀を引き抜くと、虚空に血の噴水が噴き上がり、化物の口から、夥しい量の血潮が溢れ出した。断末魔の波動を四方に放ちながら、イエローはその場に崩れ落ち、ゴミの仲間入りを果たした。
敵(俺)の出現に気づいたグリーンスライムが、猛烈な体当たりを仕掛けてきた。よけざまに、化物の側面に刀を突き刺した。だが、浅かった。ある程度の損傷は与えたが、肝っ玉の破壊には至らなかった。
俺は「ちっ」と舌打ちを打つと、刀を抜き取りざまに、再度斬りつけようとした。その前に化物の舌が横殴りに襲ってきた。足を払われた俺は、路上に転倒した。軽量級の哀しさだった。俺と化物とでは、40キロ近い体重差があるのだ。
グリーンが二度目の体当たりを仕掛けてきた。俺は起き上がりざまに、横に飛んだ。目標を失った化物が、俺ではなく、ゴミの詰まったビニール袋に咬みついていた。ビニールが破れ、腐肉の臭いが周囲に漂い出した。
俺は体勢を整え、逆襲に転じようとしたが、実際には行わなかった。グリーンは口中をゴミで埋めた格好で息絶えていた。俺が肝っ玉に与えたダメージはかなり致命的なものだったらしい。死力と気力が尽きた時、やつの生涯は終わりを迎えた。
「……」
大型とは云え、最弱のグリーンに苦戦を強いられるようでは、俺も二流、三流の域である。もっとも、一流になっても、少しも嬉しくないが。
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