夜戦
中型のグリーンスライム六匹が、二列縦隊を組んで、俺に迫ってきた。逃げるという選択はありえない。今の俺は「冷酷の戦士、ソードマン」なのだ。自分の性格や感情は関係ない。与えられた役を精密に演じ切ることに徹すればいい。この頃は、それが自然に行えるようになっている。俺も随分と「殺し慣れ」してきたものだ。恐ろしい。
俺は化物の群れに自ら近づき、斬程圏にとらえた瞬間、右手の大刀を閃かせた。頭部を削ぎ飛ばされた第一スライムが、血の噴泉を虚空に噴き上げながら、狂ったみたいに走り出し、ブロック塀に衝突した。
その時には、俺は第二スライムの肝っ玉を貫いていた。化物の胴体に埋まった刀を抜き取りざまに、第三スライムに斬りつける。
その瞬間、第三の頭が、腐った果肉のように二つに割れた。左右の断面から、泡状の血液が大量に溢れ出し、最後に肝っ玉が「ぽんっ」と音を立てて、体の外に飛び出した。
「むっ」
第四スライムと第五スライムの蚯蚓舌が、俺の腰と足首に絡みついてきた。化物と力比べをやってもかなわない。剣光が宙にきらめく。俺は第四の舌を断ち落とし、返す刃で、第五の舌を薙ぎ払った。無数の血滴と苦悶の波動を撒き散らしながら、両スライムが狂気のダンスを踊り始めた。
「やっ」
後方から、殺気の塊りが接近してきた。第六スライムである。化物の突進をかわしざまに、俺は追撃に転じ、敵の背中に刀を突き刺した。潜り込んだ刃が急所に到達した。肝っ玉を破壊した際に生じる独特の感覚を腕に感じながら、刀を引き抜く。第六を殺しざまに、体を翻した。第四と第五に襲いかかり、返り血を浴びながら、それぞれの息の根を止めた。
戦いは終わった。六スライムの死骸から流れ出す血液と体液が、路面を地獄の色に塗り潰していた。臭いも凄い。鼻が曲がりそうだ。が、死体の処理と道路の清掃は俺の役目ではない。専門の業者に任せておけばいい。辛い仕事だが、ソードマン同様、相応の報酬を受け取っている筈である。
「……」
俺は刀身に付着した血液を払い落とすと、刃を鞘におさめた。ソードマンの武器は撥水ならぬ、撥血加工が施されているので、戦闘終了の度に、いちいち懐紙で拭う必要はない。俺は血の海を背にして、その場を離れた。
ソードマンの賃金は「殺しの出来高」に応じて、支払われる。熱心に働けば、報酬に確実に反映される。まことにわかり易い。但し、スライムの種類によって、金額が変わる。一番高いのは、最強種のブラックである。イエローはグリーンの五倍、ブラックはグリーンの十倍に相当する。
退治したスライムの数は、万能兜を介して、支部のコンピューターに自動送信される。直接訊いたわけではないが、大スター長谷川は、それを参考にして、手駒の性能や部隊全体の戦力を判断しているようだ。
手っ取り早く稼ぎたい者は、ブラックを狩りたがるが、返り討ちにされる危険性が高い。まさに命懸けだ。ただ、ブラックは稀少種のため、遭遇確率は極めて低い。狙いたくても、狙えないのが実態と云える。
もっとも、ブラックがグリーン並に繁殖し出したら、人類側の犠牲者が激増する。俺も、一匹や二匹ならともかく、ブラックの群れと戦って、生き残る自信はまったくない。そんな超人芸が可能なのは、業界トップに君臨する〔ビッグ・ファイブ〕か、我らが元締め、長谷川豹馬ぐらいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます