理由
場内が沸いていた。それまで最下位だったシオールが劇的な逆転を演じたのだ。その瞬間、優勝賞金の獲得が決まった。シオールの恐るべき強運に、さしものベテラン司会者も驚いていた。
映画の宣伝も兼ねた出演なのだろう。今日のシオールは「チェス王子の衣装」を着用していた。小道具の眼鏡もよく似合っており、奔放アイドルに知性を加味していた。
列島全体の注目と関心を集めるスーパー美少年、源シオール。多彩な才能を有し、次々と開花させている彼は、日本の枠にはおさまり切らない国際水準のスターと云えるだろう。実際、海外からのオファーも幾つか来ているらしい。活躍の舞台が世界に広がる日もそう遠くはあるまい。
比べること自体がナンセンスだが、彼と俺の差に愕然となる。演技者としての技量に関しては、一枚か二枚は上だとは思う。だが、俺は絶対にシオールには勝てない。かの魔少年は「天性の華」を持っているからだ。桁外れの華を。
華とは生来のものであり、どんなに俳優修行を積んだとしても、これを得ることはできないのだ。ある者にはあるし、ない者にはない。それが華だ。俺が「華のない」役者であることは、俺自身が一番知っている。
この部屋にも、天性の華を持った人物がいる。ソードマンの元締め、長谷川豹馬。世間的知名度はゼロに等しいアングラ俳優の俺が云うのもなんだが、彼はいい役者になれる。否、なる。初めて会った時、そんな直感が雷光のように閃いたものだ。しかし、運命の神は、長谷川に芸能ではなく、選りに選って、殺しの道を歩ませた。気まぐれにもほどがある。
「どうした、魔宮。また黙り込みか。いい加減に機嫌を直せ」
その長谷川が俺に話しかけてきた。俺は軽く頷きながら、
「やっとわかったよ、長谷川さん。いや、初めからわかっていた。わかっているのに、認めたくなかったんだな」
「何を云っている。いったい何の話だ?」
「俺があんたを好きになれない理由さ」
僅かだが、長谷川の端整な顔に興味の色が浮かんだ。
「へえ。差し支えがないなら、聞かせてもらおうか」
「嫉妬だよ」
「なにっ」
「あんたの素質に俺は嫉妬していたんだ」
「馬鹿げているぜ、魔宮。俺に素質などないさ。化物退治を除けばな」
「スターにも種類がある。小スター、中スター、そして、大スター……」
長谷川は怪訝そうな表情で、
「わからんな。スター論と俺と何の関係があると云うのだ?」
「あんた自身は気づいていないみたいだし、生かす気もないようだが、あんたには大スターの風格がある。望んでも望んでも、手に入れられないものをあんたは持っている。それが俺の嫉妬心を痛烈に刺激するのさ」
「俺が大スターだと?」
次の瞬間、長谷川が爆笑した。この男としては珍しく、含みのない純粋な笑いだった。
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