代役

 セーコさんの手紙を読み終えた僕は、便箋を丁寧にたたみ、封筒の中に戻した。セーコさんらしい簡潔な文章だった。厳しさと同時に繊細な配慮が感じられて、僕は彼女のことがますます好きになってしまった。この手紙は、生涯の宝物として、ルシファー・コレクションに加えるつもりである。ありがとう、セーコさん。

 だが、おそらく、セーコさんは僕のことを恋愛の対象としては見ていないと思う。哀しいことだが、現実である。遊太もそうだ。僕が真に愛している人たちは、決して僕には振り向いてくれないのだ。理由はわからないが、これも、パーフェクション・ルシファーに課せられた宿命のひとつなのかも知れない。


 夕食の時間だった。ゆきのさんが作ってくれた具沢山のポトフを堪能しつつ、僕は遊太との会話を楽しんだ。天空の月が、適度な明るさを僕らに提供してくれていた。月光が親友の端整な顔に神秘性を与えていた。多分彼も、僕と同様のことを考えているだろう。


「食事が終わったら、三人で海岸に行ってみようか。親切なアーケロンたちに改めてお礼も云いたいし」

「素敵な案だけど、それは認められないな」

「どうして」

「怪我人はおとなしく寝てなきゃダメだよ。せめて、翼の修復が済むまではね。感謝の伝言は…ゆきのさんにお願いしてもいいですか」

 遊太の依頼に、ゆきのさんは黙礼で応じた。

「派手にやられたからなあ」

 僕は微(美)苦笑を口辺に浮かべながら、傷ついた大翼を見やった。

「しばらくの間、この島で静養したらどうだい、シオール」

「えっ」

「最近の君は働き過ぎだ。アイドルとしても、ヒーローとしてもね。保養の場を得てもいい頃だと思うよ。ご飯の支度や身の回りのことはスーパー家政婦さんにお任せして」

 ゆきのさん、再び黙礼。

「魅力的な話だね。でも、この島で戦闘天使がやることがあるかな」

「子亀たちと遊んでいればいいじゃない。あちらも君のことが大好きみたいだし」

「いいじゃない…って、その間、本篇(スライムハンター)はどうなるの。主役不在では物語が進まないじゃないか」

 遊太は軽く首を横に振った。

「その心配はないよ。君の静養中は、僕が『仮の主人公』をやるから。適当なところで『本物』と交代すればいい」

「そんなこと、できるのかな」

「できるさ。多少の矛盾は生じるだろうけど、気にしない。気にしない」

 そう云うと、遊太は立ち上がりざまに、眼鏡を取り、地味な衣装を颯爽と脱ぎ捨てた。

 次の瞬間、遊太は「往年のタツノコヒーロー」を連想させる凛々しい姿に変身していた!壮絶な(と表現したくなる)カッコ良さに、さしもの僕も見惚れてしまった。遊太は「読者の方向」に顔と体を向けると、

「というわけで、次回から僕が主役のミニシリーズが始まります。シオールに負けないよう、精一杯つとめさせていただきます。応援、よろしく」

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