手紙
スライムハンター。あれほど慣れ親しんでいたはずなのに、ひどく懐かしい気がする。と云うより、すっかり忘れていた。闇塚との抗争の始まりは、この世界を取り上げられたことに対する怒りであった。邪神の理不尽が僕を憤怒の化身に変えたのだ。
華麗なる変身を遂げ、パーフェクション・ルシファーとしての大活躍を展開している内に、僕は「人間、源シオールの心」を失いかけていたのかも知れない。
遊太がそれを思い出させてくれた。口調は常に穏やかだが、彼の発言は雷(いかずち)にも似た衝撃力を有している。やはり、シオールと魔宮遊太は運命の絆で繋がれているのだ。
そう思うと、遊太がますます愛しくなるのだった。もっとも、彼の方は僕ほどには僕のことを愛していないようだけど……。
「確かにその役は、君にしかできない役だよ、シオール」
遊太の声が優しく響く。
「パーフェクション・ルシファーは無類にカッコいい。でも、君に真に相応しい役は、戦闘天使ではなく、スライムハンターだと僕は思う。戦いも終わったことだし、そろそろあちらに戻ってはくれないだろうか」
「待って、遊太」
「なんだい」
「僕だって、可能ならそうしたいさ。だが、あいつに邪魔をされた。闇塚の横暴が全てをぶっ壊してしまったんだ」
「ああ、それならもう解決済みだよ。鍋太郎さんの正式な復帰許可を得ているからね。君はいつでも、好きな時にあちらに戻れるよ」
僕はいささか驚き、
「許可だって?そんな話、今初めて聞いたな」
「ごめん。先に云えば良かったね」
「君が謝る必要はないさ。それにしても、あいつがよくそんなものを出したな。お得意の『神の気まぐれ』かな」
「いや、説得してくれたんだよ。君に匹敵する大物がね」
「大物?まさか……」
遊太は優雅に頷くと、
「そう。セーコさんが動いてくれたんだ。さしもの鍋さんも彼女には弱いらしいね。あっさり許可してくれたよ」
「セーコさんが……」
その瞬間、蛇頭の女剣士の勇姿が、僕の脳裏に浮かんだ。
「はい、これ。君に」
そう云いながら、遊太は懐から封筒を取り出した。表面にコブラのスタンプが鮮やかに捺されていた。セーコさんの手紙だ!僕はそれを無意識的に受け取り、
「読んでも…いいかな」
などと、訊かれた側が困るような質問をした。
「勿論。君宛の手紙だもの」
遊太はクスクス笑いながら、
「顔が赤いぞ、シオール。まったく君は永遠の少年だな!無敵の超戦士になっても、食欲同様、純粋な魂を宿し続けているというわけだね」
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