門
入り口を通過した僕は、回廊の奥へ進んだ。回廊はトンネル状になっており、水晶風の半透明素材で構成されていた。天井、壁、床…回廊の随所に古代生物の骨格標本のようなものが埋め込まれていた。
いつもの僕ならば、大いに興味を引かれただろうが、今は違った。阿修羅と化した僕にとって、関心の対象はひとつしかない。即ち「闇塚の首」である。無惨に消去された親友の仇を討つのだ。それ以外のことを考えるつもりはなかった。又、必要性もなかった。
その時、ルシファーの瞳が「回廊の終点」を捉えていた。門である。あの先に行けば、仇敵に遇えるはずであった。しかし、その前に片づけなくてはならぬものがあるらしい。門の両側に「独眼の番兵」が配置されていた。一つ目入道、サイクロプスの登場であった。
二体のサイクロプスは、デザインは同じだが、彩色が異なる甲冑を装備していた。左は赤鎧、右は青鎧である。円形の盾を持ち、利き腕に得物を握っていた。赤は抜き身の蛮刀、青は金属製の棍棒であった。
あちらも僕を視認したようだ。赤サイクロプスと青サイクロプスは、ほぼ同時に動き出し、地響きを響かせながら、僕に近づいてきた。任務とは云え、怒りのルシファーに戦いを挑むとは、大した度胸である。
僕としても、抗争を避ける理由はなかった。むしろ、適当な敵を望んでいた。最後の戦いに突入する前に、遊太の剣の切(斬)れ味を試しておきたかったのだ。僕はあえて、ルシファーの矢は使わず、剣戟(チャンバラ)で決着をつけることにした。
万能戦士は「闘争のカテゴリー」を問わない。相手や場所の影響を受けずに、オールマイティに戦うことが可能であった。兵法家や武芸者は、自分の領域(得意分野)に敵を誘い込もうと苦心するそうだが、僕にはまったく無用のことであった。感覚や発想そのものが存在しないのである。
最初に仕掛けてきたのは赤サイクロプスであった。赤の蛮刀を僕は左の剣で弾き返した。返しざまに、赤ではなく、青サイクロプスを攻撃した。次の瞬間、聖なるメイスの直撃を浴びた青の盾が粉々に砕け散った。ギャッと叫んだ青の口の中に、僕の剣が、光の蛇のごとく滑り込んでいた。
赤サイクロプスが猛然と斬りつけてきた。肉厚の刃を僕は敏捷にかわした。同時に、青サイクロプスを貫いた剣を引き抜いていた。途端に噴き出した血飛沫が、赤の顔面を襲っていた。
気がつくと、視野を阻まれた赤サイクロプスの背後に、戦闘天使の美しい姿が出現していた。赤が逆襲に転じるより先に、天使の剣が虚空に華麗な軌跡を描いていた。次の瞬間、赤の首が宙を舞っていた。頭を失った胴体が、その場に崩れ落ちた。追随するみたいに、青の死体が、大の字の形で床に倒れた。剣に絡んだ血の糸を拭いざまに、僕は門前に足を進めた。
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