第4回:ルシファーの敗北
再会
アルテミス神殿の大広間で僕らは会った。闇塚の結界に引き込まれてから、時間の感覚が麻痺していた。僕らはあちらの喫茶店で、芝居の打ち合わせをし、しばしの歓談の後、店の前で別れた。つい先ほどの出来事のような気もするし、まるで、百年も千年も経ってしまったような気もする。
今日(時の流れが狂った世界に「今日」が存在するのかどうかはわからないが……)の遊太は奇抜なメイクと扮装をしていた。風変わりだが、それなりに似合っていて、僕を感心させた。何をやらせても、彼はカッコいい。
主役、ライバル、道化役と、どんなキャラクターでも巧みに演じこなしてしまうのが、彼の特技であり、その点が「主人公しかできない」僕との決定的な違いと云える。
遊太の両眼の下に「不動明風のクマ」が描き込まれていた。天才青年の端整な顔に凄味と野性味が加わっていた。材質不明の黒いスーツで、スレンダーな全身を包み込んでいた。
両手に紫の手袋をはめ、両足に紫のブーツを履いていた。ベルトを装着した腰の左にナックル・ガード(護拳)付きの長剣を帯び、そして、腰の右に異様に大きい『鍵』を吊るしていた。
「遊太!どうして、君がここに?それにどうしたの、そのバイキンマンみたいな恰好は」
遊太は形の良い唇に複雑な笑いを浮かべた。
「別段、不思議はないさ。末席とは云え、僕も闇塚劇団の一員だからね」
「末席だって!まったく君らしい謙遜だな。では、バイキンスーツの意味は何?」
「パーフェクション・ルシファー様のお好みには合いませんか」
遊太の口調が変わっていた。
「いや、よく似合っていると思うよ。でも、君の役にしては、いささか異色ではあるね」
「これぐらいやらないと戦闘天使には対抗できませんから」
「対抗?」
「ルシファー様。この辺りで矛をおさめられてはどうでしょう。そうすれば、あなたの無礼は不問に付してやると、あの方はおっしゃっています」
遊太の台詞に、僕は刹那愕然となった。
「遊太、君は?まさか、あいつに操られているのか?」
「いいえ」
遊太は優雅な動作で、首を横に振った。
「違います。僕は僕の意思でここに来ました。あなたを説得するために」
「せっかくだけど、それには応じられない。親友たる君の言葉でも、聞けるものと聞けないものがある。あいつを倒すまで、僕の戦いは続くのだ」
「……」
遊太は沈黙した。黙ったまま、右手を剣の柄に伸ばし、掴みざまに鞘から刃を抜き放った。照明を浴びた刀身が、物騒にきらめき、同様の鋭さを発する両眼が、ルシファーの美顔を睨みつけていた。
「何をするつもりだ、遊太!」
「俺もこんなことはやりたくない」
遊太の一人称が「俺」になっていた。
「だが、おまえを斬らなくては、俺が消されてしまうのだ。造物主(神)に逆らう勇気は俺にはない。勝負だ、シオール!」
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