僕の頭上に四頭の「鋼鉄(はがね)のグリフォン」が飛来していた。グリフォンは鷲の上半身と獅子の下半身を持つ伝説の怪物である。キマイラ(合成魔獣)の一種だが、闇塚が派遣したグリフォンは、どうやら金属製らしい。丹念に磨き立てられた鋼の皮膚が、独特の光沢を放っていた。

 前方に三騎、後方に三騎。武装を施した「青銅のケンタウロス」が、カツカツと鉄蹄を鳴らしながら、僕に近づいてくる。文字通りの人馬一体。人の上半身と馬の下半身を持つ融合生物である。こちらも金属製で、人間部分は甲冑を着用しており、右手に抜き身の蛮刀を握っていた。なめらかな刀身が、降り注ぐ陽光を十文字形に弾き返していた。

「……」

 魔物の群れに包囲されてしまったわけだが、僕の心は至って平静であった。戦闘天使にとって、この程度の窮地は、窮地の内にも入らないのだった。周辺の景色を楽しむ余裕さえ、僕にはあった。左の欄干越しにマウソロス霊廟が、右の欄干越しにアレクサンドリア大灯台が見えた。


 闇塚を捕捉するまで、七不思議巡りを続けるつもりであった。奴が姿を現わさない以上、他に方法がない。そして、僕の行く手を阻む者は、グリフォンであろうが、ケンタウロスであろうが、全て叩き潰す。

 パーフェクション・ルシファーの本領は何と云っても、戦いである。僕の内面にそれを望む気持ちがあることは否定できない。その時、天使の美唇に物騒な微笑が浮かんでいた。


 僕は視線を正面に戻すと、小四枚、中六枚、大二枚、計十二枚の翼を優雅に広げた。次の瞬間、ルシファーの矢による「全方位同時射撃」が開始された。十の矢が大気を切り裂く音が、園内に伝播した。彼らは優秀な猟犬であった。誘導爆弾としての性能を追加された神速の矢玉が、標的群に襲いかかった。

 ルシファーの矢の前では、グリフォンの鋼皮も、ケンタウロスの鎧も、紙細工同然であった。装甲を貫きざまに、体内で起爆した。ルシファーの矢に不発や誤爆はありえない。着弾後、確実に標的を粉砕する。

 各所で閃光がきらめいた。頭部を消し飛ばされた第一のグリフォンが、オイル風の体液を撒き散らしながら、地面に墜落し、そこで機能を停止させた。体の半分を消失した第一のケンタウロスが、無数の歯車を噴き出しながら、欄干を乗り越え、断末魔の波動と共に橋の下へ落ちていった。第一以外のグリフォンとケンタウロスも大体同じような運命を辿った。

「……」

 戦いは終わった。グリフォンもケンタウロスも、相当な実力の持ち主だが、今回は相手が悪過ぎた。大差の勝利に感動はない。僕は十二の美翼を円滑にたたむと、アルテミス大神殿に向かって、歩行を再開した。

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