公園

 雲の壁を突き破った先に意外な光景が待っていた。ギザ、バビロン、エフェソス、オリンピア、ハリカルナッソス、ロドス島、そして、アレクサンドリア。世界の七不思議を題材にした(と考えられる)巨大なテーマパークを、僕は視野に捉えていた。それは、闇塚の妄想エネルギーが作り出した狂的産物であった。

 生きて、動いている者は誰もいない。無人の大型施設を不気味な静寂が包んでいた。園内は入念に掃き清められており、塵ひとつ落ちていない。徹底した清潔管理が行われているらしい。しかし、その徹底振りが、来園者(今のところ、僕一人だけど)に異様な印象を与えるのだった。

「……」

 この異形のテーマパークのどこかに闇塚は潜んでいるのだろうか。ともあれ、奴の手に乗ってみることにした。探索を始める前に、僕は「大魔神サイズ」から「人間サイズ」に体の大きさを一瞬で調節した。

 パーフェクション・ルシファーたる僕には造作もない芸当である。やろうと思えば、ウルトラセブン同様、ミクロ化も可能だ。

 記すまでもないことだが、体格が変化しても、僕の美しさに変わりはない。地上(あるいは、下界)に降り立ったエンジェル。特に意識をしているわけではないのだが、またもや、画家さんたちに極めて魅惑的なモチーフを提供してしまったようである。


 天空に煌めく黄金の円盤が、パーク全体を照らし出していた。それは良いのだが、いささか暑い。ルシファーの美肌に汗の玉が滲んでいた。喉の渇きを覚えた僕は「バビロンエリア」に向かった。

 空中庭園の一画に用意された休憩スペースに足を進め、パラソル付きの卓席に腰をおろした。柵越しにピラミッドとスフィンクスが見えた。

 ここまで、邪神の兵隊が襲ってくることもなければ、罠が仕掛けてある様子もなかった。勿論油断は禁物だ。超レーダー「ルシファーの瞳」は常に機能している。危険を感知した瞬間、即座に対応する。もし闇塚が、僕のスキを窺っているのだとしたら、まったくの無駄であると断言したい。


 僕は卓上に「喫茶セット」を出現させた。チョコケーキを摘まみつつ、淹れ立ての紅茶を飲んだ。これは、あちらに戻ってからの話だが、スーパーアイドル、源シオールの初仕事は紅茶のコマーシャルだった…という設定を追加してみるのもいいかも知れない。あの「絶世の美少年」は何者だ?同CMが放送されたその日、列島は大騒ぎになるのだ。

 小休止を終えた僕は、喫茶セットを消滅させた。席を立ち、探索を再開した。空中庭園とアルテミス大神殿を繋ぐ橋を渡っていると、上空と前後に魔群が現れた。飛行型と歩(走)行型、二種類のモンスターが僕を取り囲んだ。

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