衛兵

 パーフェクション・ルシファー(僕)の足下に、ゴールドとシルバー、二大ゴーレムの残骸が転がっていた。桁外れの膂力と耐久力を誇る破壊の巨兵も、ルシファーの敵ではないということである。

 僕と互角に戦える者は、邪神闇塚しかいない。しかし、我が宿敵殿は、黒雲の内部に潜伏し、一向に姿を現わそうとはしないのだった。神の名を汚す卑怯な振る舞いだが、彼らしい行為とも云えた。そういう奴なのだ。あいつは。甲羅の中(安全地帯)に身を置いて、僕と手兵の戦いを眺めているのだ。ならば、このルシファーが、直々に甲羅から引き摺り出してやる。


 僕に連戦を強いることによって、こちらの疲れを待っているとも考えられる。疲労困憊した僕に自らトドメを刺すつもりなのか。奴がやりそうな下策であった。あいにく、僕の胸にカラータイマーはないのだ。

 無尽蔵…とまでは云わないが、ルシファーの体内には、膨大な量の闘争エネルギーが蓄えられている。加えて、今の僕は怒りに燃えている。かの鉄面皮に正義の鉄鎚を下すまで、僕は止まらない。いや、止められない。


 僕は十二の美翼を起動させて、飛翔行動に移った。邪神退治の使命を帯びて、天空へと舞い上がる大天使ルシファー。裸体が放つきらめきは、この世界を構成している邪念毒念を洗い落とす浄化の光だ。神話が始まっていた。これほどに大作絵画の題材に適した光景も当今稀であろう。


 ルシファーの到来を察知したのか、妖雲の周辺に、六つの不気味なシルエットが出現していた。憤怒の炎に油を注ぐ愚行であった。この段階に達しても、闇塚は自ら戦おうとはしないのだ。奴に神としての矜持はないのだろうか?しょせんは、邪神、魔神の類い。その程度に過ぎないと云ってしまえばそれまでだが……。

 影の正体は、オルドビス紀(4億8540万年前)最大の怪物のひとつ、カメロケラスであった。長大なランス(騎槍)状の甲殻の奥から、イカとタコが融合したような多足動物が這い出していた。全長10メートルを超える巨大軟体生物だ。感情の死んだ目玉がルシファーの美顔を見詰めていた。


 本物のカメロケラスはシルル紀(4億4340万年前)に絶滅している。僕の視野に現れたカメロケラスは、闇塚の魔力が作り出した複製品である。

 永遠の眠りについていた彼らを呼び覚まし、自分の手先として、僕にぶつけようというのだ。そのやり方が猛烈に気に食わない。まさに「神の驕り」であり、それを叩き潰すために僕のメイスは存在するのだ!

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