天使
その瞬間、ゴールドゴーレムの古代遺跡の円柱みたいな足が粉々に砕け散った。バランスを崩したゴーレムが、大袈裟な地響きを立てながら、無様に転倒していた。
ゴーレムに踏み潰される前に、僕は内面に渦巻く大量の精神エネルギーを一気に解放したのだった。さしもの黄金巨兵も、その直撃に耐えることはできなかった。巨兵の右足は、膝の部分まで、綺麗に消し飛んでいた。
気がつくと、邪神の悪意に満ちた無限の空間に、両ゴーレムと同等の身長を有する「十二枚の翼を持つ大天使」が出現していた。無論、僕だ。闇塚の傲岸不遜な態度は、僕を本気で怒らせてしまった。正義の怒りと絶大な精神エネルギーがひとつになった時、奇跡が起きた。
僕は両性具有の戦闘天使〔パーフェクション・ルシファー〕へと華麗なる変身を遂げていた。完璧な美貌と美体、弱者を守護する愛と優しさ、巨悪に敢然と立ち向かう勇気、そして、比類なき強さを具えた正義の具現者である。この役だけは、さすがの天才俳優・魔宮遊太にも演じ切れまい。ルシファーは僕…源シオールのみに許された別格の役なのだ。
全ての男女を魅了するルシファーの裸体が神秘の輝きを放っていた。下位に属する悪鬼や使い魔の類いがこれを浴びたら、その瞬間に跡形もなく消滅するだろう。戦闘天使の能力のひとつ、破邪のきらめきであった。
「……」
ゴールドゴーレムを見下ろす僕の右手に「聖なるメイス(戦鎚)」が握られていた。球形の先端部に鋭利なスパイクが幾本も植え込まれており、破壊力を倍増させていた。形状からの連想だろうか。このメイスを「モーニング・スター(明けの明星)」と呼ぶ地域もある。
邪悪を粉砕する正義の鉄鎚であり、これほどにパーフェクション・ルシファーに相応しい武器は他にあるまい。僕は、背後から襲いかかろうとしているシルバーゴーレムを適当な位置まで引き寄せると、振り返りざまに右手のメイスを白銀巨兵の脳天に叩きつけた。
ばがっ。
直撃の瞬間、凄い音が一帯に響いた。正義のメイスが、シルバーゴーレムの頭部を致命的に破壊していた。大小の破片が周囲に飛び散り、苦悶の波動が世界の空気をびりびりと震撼させていた。白銀巨兵の両手がありもしない頭を探して、虚空を掴み続けていた。
「むっ」
ゴールドゴーレムの指先が僕の足首に伸びようとしていた。ルシファーの美唇に余裕の苦笑が浮かんでいた。まったく往生際の悪い奴である。僕はメイスに「拡大の思念」を送り込んだ。メイスはたちまち反応した。僕は冗談みたいに大きくなったメイスを黄金巨兵の背中に落下させた。
どがぁーん。ずどどどぉーん。
ゴールドゴーレムの四散とシルバーゴーレムの崩壊がほぼ同時に発生していた。僕はメイスを通常サイズに戻すと、天空を浮遊する妖雲を睨みつけた。闇塚が姿を現さないのならば、僕の方から本陣に斬り込むまでだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます