巨兵
闇塚を飲み込んだ漆黒の妖雲が、天空を浮遊していた。気がつくと、雷光も雷鳴もぴたりとやんでいた。世界に不気味な静寂が訪れていた。
僕は銃をホルスターにおさめると、第四坊主の頭部を貫いたレイピアを拾い上げた。抜き身の剣を片手下段に固定し、僕は敵の出方を窺った。
「……」
新手のモンスターが出現したら、直ちに迎撃する構えであった。正義のヒーローにとって、邪悪と戦うことは必須科目のひとつではある。恐れはしないが、それが大好きというわけではない。僕は平和を愛する心優しい美少年(兼魔少年)なのだ。無益な戦闘は回避したかった。
闇塚が自分の非を認め、結界の扉を開くならば、これ以上争うつもりはない。剣をおさめ、ここを出る。他には何もしない。又、そんな時間もない。だが、尚も妨害を続けるのならば、こちらにも考えがある。
僕が本気で立ち向かってきたら、さしもの天帝(創造神)も安穏とはしていられない筈である。それだけの機能や能力を僕に与えた(あるいは、与えてしまった)ことを、一番知っているのは当の闇塚なのだから。
ずしーん。ずしーん。ずしーん。ずしーん。ずしーん。ずしーん。
そのような僕の思いを踏み躙るかのように、大地を揺さぶる地響きが響き始めていた。どうやら、あちらに矛をおさめる気はないようだ。ならばこちらも、相応に対処するしかない。徹底的に戦う。
やがて、僕の視界に二体の巨人が現れた。身の丈二十メートルはあろうかという大怪物だ。レンガを組み合わせたみたいな城壁風の胴体に、円筒形の頭部が乗っていた。鼻も口もない。卵形の両眼が僕を無感動に見下ろしていた。
二体とも「素手」であった。武器らしきものは帯びていなかった。必要ないからだ。桁外れの膂力と体重を使えば、大抵の敵は粉砕できる。
一方は黄金色に、もう一方は白銀に輝いていた。ゴールドゴーレムとシルバーゴーレムの登場であった。
ずしーん。ずしーん。ずしーん。ずしーん。ずしーん。ずしーん。
耳障りな地響きが続いていた。ゴールドとシルバー。二体のゴーレムが左右から接近してきた。凄い迫力だった。特大の殺意が僕を挟み撃ちにしようとしていた。
全員とまでは云わないが、僕以外の者が同様のシチュエーションに置かれたら、即座に気絶するか、発狂するかのどちらかになるだろう。肉体が破壊される前に、精神が崩壊してしまうのだ。
その瞬間、視野が暗くなった。黄金の巨足が僕の頭上を塞いでいた。
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