戦闘

 四体のモンスターが僕を包囲していた。新たな敵。一言で表現するならば、てるてる坊主のお化けである。昭和のちびっ子たちを戦慄させた「3メートルの宇宙人」に似ていなくもない。

 埴輪風の顔が見る者にユーモラスな印象を与える。だが、坊主たちの得物は決してユーモラスではなかった。死神が愛用していそうな大鎌を各自が装備していた。不気味に曲がった刃が、物騒な輝きを放っていた。


 頭数をひとつでも減らすことが、多勢に対する最も有効的な戦い方のひとつである。気がつくと、体が動き出していた。自分でも感心するほどに素早い動作であった。その時僕は、疾風と化していた。

 馳せつけざまに、僕は第一坊主の首を刎ねた。レイピア(細剣)による斬首は、余程の使い手でなければ不可能な芸である。それができてしまうということは、僕の技量がそのレベルに達している証しと云えるだろう。

「えいっ」

 第一坊主の消滅を見届ける意味も必要もなかった。刎ねざまに閃いた僕のレイピアが第二坊主を急襲していた。虚空に垂直の銀光がきらめいた。次の瞬間、第二の頭部が左右に分かれていた。化物が断末魔の波動を響かせながら、無限空間から退場していった。

「うわっ」

 第三坊主が繰り出した鎌刃が、僕のヘルメットをかすめていた。削り飛ばされた金属が、火花となって宙に舞った。調子に乗って襲いかかってくる第三の脇腹に僕は強烈な蹴りを食らわせた。

 その反動を利用して、僕は第四坊主に飛びかかった。第四の鎌が威力を発揮する前に、僕のレイピアが敵の眉間に潜り込んでいた。頭部を串刺しにされた第四が断末魔の演奏を始めた時、体勢を立て直した第三が背後に迫ってきた。

 次の瞬間、第三の鎌が空間に三日月形の軌跡を描いていた。だが、渾身の攻撃は空振りに終わった。薙ぎ払われるべき対象(僕)は軌道上に存在していなかった。第四の頭を貫いた僕は、その時点で、剣を捨てていた。代わりに、ホルスターから抜き取った愛銃を握っていた。同時に、安全装置を解除。照準を定めざまに、トリガーを引いた。

 銃の先端からほとばしった光線が、第三の胸に吸い込まれた。気がつくと、化物の体に大穴が空いていた。穴の向こうに、別の景色が見えた。

 苦悶の波動を撒き散らしながら、第三が自慢の大鎌を僕に向かって投げつけてきた。死力を投入した最後の反撃だった。

 不屈の闘志。敵ながら天晴れである。しかし、スーパーヒーローたる僕には通じない。相手の奇襲を僕は警戒していた。再びトリガーを引く。光線を浴びた大鎌が、炎を噴き上げた。自分の武器が燃え尽きるのを待っていたかのように、第三はその場に崩れ落ちた。そして、世界から消えた。

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