異変
人気と実力を兼ね具えた若手ナンバーワン俳優、魔宮遊太。舞台共演は『ロミハム』が最初だが、ドラマや映画の撮影現場では幾度も顔を合わせている。もっとも、彼は常に主役か準主役であり、いわゆる「客寄せパンタ」として出演している僕とは、全然格が違うのだった。
初めて臨む映画の撮影。勝手がわからず、迷子同然に戸惑っている僕を優しくサポートしてくれたのが遊太だった。主演クラスの彼が「パンダの世話」をやってくれたのだ。なかなかできることではない。
繊細な心遣いに感激し、その日から、僕は遊太のことが大好きになってしまった。愛してしまったと云ってもいい。無論精神的にである。以来、親交を続けさせてもらっている。彼とは、呼び捨てで呼び合う仲である。
「遅れてごめん」
そう云いながら、僕は腰のレイピアを鞘ごと抜き、ヘルメットを壁の帽子掛けに掛けた。それから、遊太の対面の椅子に腰をおろした。遊太は左の手首にはめた腕時計を見つつ、
「いや、約束の時間までまだ五分ある。僕が着くのが早過ぎたのさ」
「だといいけど、多忙の君を待たせるのは、さしもの僕も心苦しい」
「忙しいのはシオール、君の方でしょう。なにしろ、アイドルとスライムハンターの二本立てをやっているのだから」
「体力的にはきついけど、僕に適している気がする」
「二足の草鞋が?」
「そう。ハンターをやり始めてから、子供のファンが激増したし。グッズの売れ行きも好調で、社長が嬉しい悲鳴を上げているよ。僕が養成所に通いたいと云った時には、あんなに反対していたくせに」
「だろうな。君は今や、都民の命を守るスーパーヒーローだ。さっきも吹き出しかけたもの、その格好があまりにも似合っているから」
「ああ、これね」
云いながら、僕は(自分が着用している)密着型バトルスーツに視線を走らせた。
「なかなかよくできていると思わない?これを着ていると、ロボットアニメの主人公になったみたいで、気持ちがいいのです」
「アニメを超えてるよ」
遊太は再び笑うと、
「でもそれは、類い稀な容姿を持つ君だからこそ、映えるんだろうねえ。他の誰が着ても、失笑と顰蹙の対象にしかならない」
「そうかな?遊太ならいけると思うけど。一度試してみる?」
「いえ、僕は遠慮しておきます」
「いらっしゃいませ」
注文を取りに来たマスターに、遊太はダッチ・コーヒーを、僕は抹茶フロートを頼んだ。その時、異変が起きた。マスターの首から上が「人間以外のもの」に変わっていることに僕は気づいた。
マスターの頭が古代魚ダンクレオステウスになっていた。
次の瞬間、僕の口から、驚愕と恐怖の叫びがほとばしっていた……。
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