朝食
台所兼食堂に行ってみると、卓上にゆきのさんの手料理が整然と並べられていた。素晴らしい光景であった。これを見て、胃袋が活性化しない日本人はいないだろう。
今朝の献立は、塩鮭、大根おろし、温泉卵、月見芋、胡瓜とワカメの酢の物、大根の煮物、海苔の佃煮、小松菜の胡麻和え、梅干し、ひじきの煮つけ、納豆、豆腐の味噌汁などであった。
「おはようございます」
僕はゆきのさんに軽く頭を下げてから、自分の席に着いた。ゆきのさんがうちに来てくれるようになったのは、僕がスライムハンターの養成所に通い始めた頃である。社長の紹介であった。
ゆきのさんは業界の有名人である。県内に十人もいない「スーパーお手伝いさん」の一人で、働き先にはまったく困らないそうだ。妖精めいた雰囲気を漂わせる不思議な女性で、動作に気品がある。顔立ち同様、心も美しい。口数は少なめだが、真に優しい人である。彼女の優しさに、僕は幾度も助けられている。
養成所時代、連日の猛訓練にくじけそうになると、ゆきのさんがなぐさめ、励ましてくれた。その度に元気と勇気をもらった。僕がハンター試験に合格できたのも、三分の一ぐらいは彼女のおかげである。
「ごちそうさまでした」
僕は席を立った。ゆきのさんが淹れてくれたコーヒーを受け取り、それを居間に運んだ。ソファに座り、テレビの電源を入れた。チャンネルはテレビ埼玉。往年の特撮ヒーロー番組を放送してくれる時間帯である。
今日の作品は『ガラガラマンの逆襲』であった。故郷を悪の組織に滅ぼされた主人公が、改造人間ガラガラマンとなって、復讐の旅に出るというストーリー。70年代前半に制作されたものである。
特撮番組に西部劇…と云うより、マカロニウエスタンの要素を取り込んだ意欲作である。しかし、初放映の際は視聴率が振るわず、結局打ち切りになってしまった。子供には難しく、大人には物足りない中途半端な作風が、その原因だと云われているが、僕自身は相当気に入っている。
同番組は鎌倉でも再放送が盛んに行われていて、小学生の僕は独特の世界観にすっかり魅了されてしまった。今でも大好きである。もし、ガラガラマンをリメイクするなら、僕も何らかの形で参加したいと思っている。
ガラガラマンの唯一の友人と云えるのが、天涯孤独の美少女カエデである。極端に無口なガラガラマンと異常に陽気なカエデとのやり取りは、貴重な「笑いの場」であり、暗いトーンの作品に救いを与えていた。
カエデ役の川口英子さんは、ガラガラマンの後も特撮系の番組で活躍されていたが、突如引退を宣言。画面から去られた後の消息は不明である。僕も今や芸能人。一度お会いしてみたいと考えているのだが、その機会を得ることができるかどうか。
セーコさんにとって、僕という存在は、ガラガラマンの周りを飛んだり跳ねたりしているカエデのようなものなのかも知れない。だとしても、彼女を愛する僕の気持ちに変わりはないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます