救助
闇の中に剣光がきらめいた。スライム二匹の襲撃に対して、僕は即座に応戦していた。考えるよりも先に体が動いていた。
夜のように暗い廃墟の廊下。視界は悪いが、僕の攻撃は正確だった。第一スライムの舌を断ち落としざまに、第二スライムの胴体を貫いた。僕のレイピアが第二の「肝っ玉」を突き破っていた。最大の弱点を破砕された第二はその瞬間に絶命した。
「……」
第二の胴体からレイピアを引き抜いた。途端に、猛烈な血飛沫が虚空に噴き上がった。僕は横に飛んで、返り血の直撃を避けた。舌を切断された第一が苦悶の波動を撒き散らしながら、体当たりを仕掛けてきた。これも軽々と回避。らくあ先生直伝の体術のおかげだった。スタミナは欠けているが、スピードに関しては、多少自信がある。
第一は僕ではなく、壁面に激突した。化物が体勢を立て直した時には、僕はダークゾーンを抜けて、安全地帯に達していた。奴にトドメを刺さなかったのは、体力温存のためだ。今回の眼目は幼女の救出であって、奴らの殲滅ではないからである。それはさておき、このようなモンスターの温床を(都議会は)いつまで放置しておくつもりなのだろうか。
三階に繋がる階段を駆け上ると、視野が劇的に広がった。屋根に生じた複数の穴を通じて、陽光が屋内に注ぎ込んでいた。
開けっ放しの扉を過ぎて、細長い、ベランダ状の張り出し部分に足を進めてみると、そこに幼女がいた。情報通り、リラ*クマを思わせる着ぐるみ風の服を着ていた。幼女は平和な公園のベンチに腰かけているような調子で僕に話しかけてきた。
まことに残念だが、彼女と僕のやり取りは割愛する。だが、これだけは云っておこう。かの幼女は「特殊な能力」の持ち主であり、数年後、対スライム戦争を終結に導く重要な役割を果たすことになる。しかし、この時の僕は彼女を助け出すのに精一杯で、そのことに気づく余裕はなかった。
僕は持参した「鉤付きロープ」を利用して、三階から地上におりた。幼女を背負った状態での降下は、僕にとっては相当な重労働だったが、なんとかやり遂げることができた。スライムハンター…いや、ヒーローとしての使命感が僕にその力を与えてくれたのだ。
僕たちがおりた場所は、病院の裏側にある駐車場だった。ここも荒れ放題に荒れていて、あちこちの亀裂から、雑草類が不気味に生え出し、都会のジャングルを形成していた。
幼女と母親の再会を見届けてから、僕はスタジオに戻った。残りの撮影を終えて、川越の自宅(マンション)に着いた頃には、翌日になっていた。
浴室に入り、温水を盛大に浴びた。この建物は完全防音なので、近所迷惑の心配はない。汗と疲労を洗い落としてから、浴室を出た。台所の冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターのボトルを取り出し、封を切った。
「……」
窓越しの夜景を眺めながら、タンブラーに注いだそれを飲んだ。アイドルとスライムハンターの兼業。空前の挑戦は、二日目に突入していた。
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