初陣
スライムハンターとしての初仕事は「『スライムの巣』に迷い込んだ幼女を救出する」というものであった。その日の僕は、コマーシャルの撮影に臨んでいた。衣装は自前。ハンターの戦闘服をそのまま使っていた。友達のアニメーターがデザインしてくれたもので、この世にひとつしかない逸品だ。ボル**チームのリーダーの服を図案の参考したそうである。
撮影の半分を終えた僕は、控室で遅めの昼食をしたためた。スポンサーが差し入れてくれた鰻弁当である。食後のお茶を飲みながら、日本にいないセーコさんのことを考えていた。蛇将軍はキャプテン・シンカワといっしょにイギリス遠征に出ているのだった。
ロンドンに大量発生したイエロースライムに対抗するため、この道のエキスパートであるセーコさんとシンカワさんに加勢の依頼が届いたのだ。云わば、日本代表である。
激しい戦いが連夜繰り広げられているらしい。帰国日が未定なのもそのせいだろう。最強の二人が不覚をとるようなことはないと信じてはいるけれど、心配を始めると、それは無限に膨らみ、僕を酷く悩ませた。
勇躍、ロンドンに応援に駆けつけたいところだが、実戦経験に乏しい僕が行っても足手纏いになるだけだ。留守番に徹することが、僕にできるベストの選択だと、その度に自分に云い聞かせた。
二英雄に代わって、スライムの牙から都民の生命(いのち)を守るのだ!担ぎ切れない重荷を敢えて担ぐ覚悟を僕はかためていた。
左の手首にはめたブレスレットがまばゆい光を放っていた。これは、ハンター養成所の卒業生のみに与えられるアイテムで、通信機と免許証の両方を兼ねている。出撃要請を受けざまに、僕は部屋を飛び出し、現場へ急行した。
それは、経営破綻の果てに閉鎖された中型病院であった。解体のメドもつかぬままに時が経ち、不気味な廃墟と化した建物はスライムたちの格好の棲み処になっているのだった。
この化物の巣窟に単身で突入した「勇気ある」もぐりハンターがいる。かのコガネマンである。常軌を逸脱した行動と凄惨な末路は、全ハンターの教訓として、これからも語り継がれることになるだろう。
廃墟病院はスタジオの近所だった。病院の玄関付近で、女の子の母親(だと思われる女性)が泣き叫んでいた。屋内に入ろうとする彼女を警官数名が懸命に制止していた。ハンターの姿はなかった。
「……」
同業者の到着を待つか、待たずに飛び込むか、僕は大いに迷った。当然のごとく、コガネマンのあの恐ろしい死顔が脳裏に浮上した。だが、助けるなら今の内だ。日が暮れてしまったら、幼女の生存率はゼロになる。
気がつくと、体が動いていた。僕は玄関の扉を蹴破り、魔物の領域に踏み込んだ。腰のレイピア(細剣)を抜きざまに、僕は奥に進んだ。
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