神様ReLIFE⑤
エイトは地上へ降りている間、夢を見ていた。 夢というより走馬灯のように、過去の出来事が自然と思い浮かんできたという方が近い。 6歳で入院していた時の光景だった。
ベッドの上でぼんやりと外を眺めていた時、突然病室のドアが開く。 その音に驚きドアの方へ目をやると、そこには見知らぬ青年が一人立っていた。 走ってきたのか、呼吸がかなり荒い。
「・・・どちら様、ですか?」
不審者を見る眼付きのエイトに、青年は笑顔で答えた。
「初めまして! 俺の名前はエイト、16歳だ!」
「エイ、ト・・・?」
自分と全く同じ名前だったため、この時のことはよく憶えている。
「僕たち、初対面ですよね? そんな僕に、何か用ですか?」
「あぁ、だから来たんだ」
「何の用ですか?」
名前が同じだからと、易々と信用するわけにはいかない。 だがそんなことは関係ないと言わんばかりに、青年は堂々と近付いてきて手を取った。
「おめでとう! 君は、神様に選ばれたんだよ!」
「・・・はい?」
何を言っているのか、理解ができなかった。 まるで胡散臭い宗教団体の勧誘のようだ。
「ちょっと、何を言っているのかよく分かりません。 僕はそもそも、神様なんて信じていないですし」
「あぁ、それでいい。 エイトくんはそのままでいて」
「え? 今、エイトって・・・」
『どうして自分の名前を知っているのか』と尋ねようとした途端、青年は時計を気にし出した。
「ごめん、俺はもう行かないと」
「待ってください、まだ質問が」
「急ぎなんだ、本当にごめん! ・・・またいつか、会えるといいね」
「・・・?」
青年はエイトの頭を優しく撫でると、踵を返し走って病室から出ていった。 嵐のようにやって来て、嵐のように去っていく青年。 そんな彼の背中をぼんやりと見つめていた。
―――一体、何だったんだ・・・?
人生である以上これには続きがあるが、夢はここで途切れた。 エイトは気が付き目を開く。
―――あれ、夢・・・?
―――ついに僕、地上へ戻った!?
上体を起こし、自分の姿を確認する。 立ち上がると足が地に着いていた。 生きていた頃に住んでいた街。 工業で生計を立てる人が多く、至るところから煙が上がっている。
天国へいる間はずっとふわふわとした雲の上のような場所で歩いていたため、地面が何となく懐かしく感じた。 身体も不自由なく、思い通りに動く。
「わぁ、凄い凄い! 僕、生きてるや!」
はしゃぎ過ぎていると、通行人とぶつかった。
「あ、ごめんなさい!」
「あぁ、こちらこそ。 気を付けてね」
辺りを見渡すと、道路のど真ん中にいた。 いやそんなことよりも、気になったことがある。
―――僕は、他の人に見えてるの?
霊として地上へ降りると思っていたため、まさかのことに嬉しかった。 自分の家はすぐ近くだ。 そう思うと、足が一人でに走っていた。 玄関前まで来ると大きく深呼吸をし、ドアを開けようとする。
だが開ける直前に我に返り、慌てて手を引っ込めた。
―――あ、危ない危ない・・・。
―――家族が僕の姿を見たら、驚いちゃうよね。
そう思い、いきなり家族と会うのは断念。 庭へ回り、中の様子をこっそり窺ってみることにした。 するとリビングに自分が死んだ時くらいの年齢の、知らない男の子がいる。
―――誰だろう・・・?
しばらく様子を見ていると、エイトの母が現れた。 男の子の横に座り、一緒に宿題をし始める。
―――お母さんの子供?
―――・・・ということは、もしかして僕の弟!?
あれから10年。 エイトが死んですぐに子供が生まれたとするなら、あれくらいの年齢になっている頃だ。 複雑な気もしたが、新たな子供に恵まれて幸せな家庭を築いているのなら、それでいいと思った。
よく見ればリビングの端に、エイトの簡易祭壇が見える。 自分が忘れられてないと分かり、それだけでも嬉しかった。
10分程その光景を堪能した後、次の場所へ行こうとする。
―――・・・お母さんと、僕の弟が見られたから満足だ。
―――お父さんに会えなかったのは残念だけど、時間がないから次へ行こう。
ここまでで30分程は経っている。 時間制限が三時間のため、まだまだあるように思えるが、泉から見ていた少女の居場所が分からなかった。
もし探すとなれば、時間なんていくらあっても足りないくらいだ。
―――これからどうしたらいいんだろう?
早々に行き詰ってしまった。 考えている間にトイレへ行きたくなり、急いで公園へと駆け込む。 これも天界ではなかった生理衝動だ。
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