第12話:茹卵とポーチドエッグと卵粥

 俺は日本から持ち込んだホットプレートにサラダ油を引き、6個玉の半熟目玉焼きを作り、6枚切りのトーストを3枚焼いて、その上に乗せて食べた。

 飲み物は薄めのインスタントコーヒーだが、俺にはこれで十分だ。

 卵の食べ過ぎと言いたい奴には言わせておけばいい。

 養鶏場や鶏卵卸売の人間なら、毎日割れ卵をそれくらい食べている、と思う。


「結構美味しそうではないか、私にも同じモノを作るのじゃ」


 石姫皇女がケーキ以外に興味を持ってくれれば助かる。

 特にこちらで自給自足できるモノを美味しく食べてくれたら、毎日の出費を抑えることができるかも知れない。

 ここは上手く交渉しなければいけない。

 1円足らなくて住宅ローンを延滞するなんて絶対嫌だからな。


「女神様、私が美味しい家庭料理を色々と作らせていただきます。

 今までのお供えに家庭料理はなかったと思います。

 その代わり、住宅ローンの目途がつくまではケーキの購入はお許しください」


 心の読める石姫皇女に駆け引きなど通用しない。

 ここは直球勝負で交渉するのが最善だと思ったのだ。

 若衆達が戻れば、多くの利益が出て美味しい料理を幾らでも買うことができる。

 一時の辛抱で未来永劫美味しいお供えを食べることができるようにするのか、我慢せずに今まで通りの決まったお供えを未来永劫食べるかの選択だ。

 俺が借金で潰れたら元の木阿弥になってしまうのだ。


「しかたないのう、その代わり今頭に描いてるバターとイチゴジャムを乗せた厚切りトーストと、たっぷりチーズを乗せたチーズトーストを作りのじゃ。

 材料を直ぐに買ってくるのじゃ、それで許してやるぞえ」


 どうも石姫皇女の話し方が食欲でおかしくなっているようだ。

 美食家や料理人ならもっと美味しいモノを思い浮かべるのだろうが、俺が思い浮かべられるのは、俺が過去に食べた事のある好きなモノだけだ。

 貧相な料理と思うかもしれないが、人は自分が手に入るモノしか食べられない。

 それはこ異世界の氏子衆も同じで、サラダ油もホットプレートも玉子焼き器もない状態で作れる卵料理など、本当に限られていたのだった。


「ほう、大麦粥に卵を1人1個入れたのか、なぜ溶き卵にしなかった」


 俺の頭の中では、卵粥や卵雑炊と言えば溶き卵なのだが、俺が毎日鶏が産む卵は100個供えればいいと言った結果、憧れの卵を1人1個食べることにしたそうだ。

 卵が1個使われているのを確実に視覚でとらえるなら、油がなくて鍋に焦げ付かない料理だと、茹卵かポーチドエッグになる。

 粥や雑炊に入れるにしても、溶かずに1個落として使うことになる。

 前提条件として、砂やゴミの混じっていない純白の塩が俺から与えられている。

 茹卵とポーチドエッグはもちろん、卵入り大麦粥も、たっぷりと塩を使えれば、異世界の氏子衆には御馳走なのだ。

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